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2022年10月15日

散歩の途中で「お父さん預かります」

急に決まった「北海道の旅」のことを何回かに分けて少し書こうと思う。それは「家の用事」がきっかけだったのだが、65歳の旅として紹介してみたい。出てくる街はみんなが知っているところばかりだ。

9月のある日の夕方、僕たちはJR小樽駅に降りた。つまり新千歳空港から小樽までJRを使ったのだ。北海道は広いから、今までならレンタカーが当たり前だった。北海道で電車移動したのは40年ぶりのことだ。小松から同行した弟たちは、やはりレンタカーなのだが、調べたらなんと、レンタカーより電車のほうが圧倒的に早く着けるのだ。いつの間にか専用の快速ライナーというやつが走ってるらしい。へそ曲がりな僕は、こうして電車旅を選んでみることにした。弟たちとは別行動だ。
小樽は好きな街だった。とはいえ、かれこれ20年ぶりだ。僕にとっての小樽は、いつも北海道出張の「おまけ」のような街で、せいぜい滞在するのは2時間くらいだったと思う。北一硝子やルタオくらいがいつもの立ち寄り先だったし、食べ物イコール「小樽は寿司の街」というイメージしかない。だから、実は駅前エリアも、あの運河あたりも歩いたことがなかった。もう夕方なのだが、ちょっと歩いてみようと思う。こうして小樽の散歩が始まった。

小樽駅の横には「小樽三角市場」がある。まぁ鮮魚店の水槽には活帆立や牡蠣、そして蟹が泳いでいて、そんな海の幸をウリにする食堂が並んでいる。メニューには焼き魚定食みたいなものもあるのだが、どうやらここも海鮮丼がイチ押しらしい。日本中どこも海鮮丼ばかりだなぁ。
今夜のホテルは運河の近くで、駅から10分くらいらしい。プラプラ散歩しながら向かうことにした。駅から海へと向かう道は、広くて長い下りの坂道で、古いレンガ造りの建物なんかが並んでいる。建物にはかならず「元〇〇の跡」みたいな説明表示がついている。古い線路の跡やレトロな看板も楽しくていい雰囲気だ。海に向かうレトロな坂道ってのは、まぁ函館もこんな感じだけど、なんとなくだがサンフランシスコ(もっと急な坂道の街だけど)を思い出す笑。
ホテルに荷物を置いて散歩を続けた。運河あたりは立派な観光地になっていた。周辺の運河クルーズもできるようだし、新しい美術館なども並んでいる。そして、北のウオール街から北一硝子方向へとゆっくり歩いた。もう夕方なので観光客は少なくて通りは静かだ。

そんな商店街で面白い看板を見つけた。「お父さん預かります」というキャッチーな文言だ(3軒ほどある)。見つけたとき、ちょっとドキッとしてしまった。家内は横で「預けようかな」などと笑っている。まぁ預けられても困る(笑)。昔は、買い物するのはお母さんの方だから、買い物のあいだ、お父さんはここでゆっくり一服して、あれこれイートインしててね、という意味らしい。
今は、そんな老夫婦の姿はなく、若いグループやカップルばかりだ。だからお店はどこも今っぽくて、小樽らしさは少し減ってしまった気もする。まぁ、大好きだった北一硝子のランプのホールも、すっかり観光地的な対応で残念な気もした。小樽のケーキ屋さんでは、ずっと昔からチョコレートケーキのことをモンブランと呼ぶらしい。ちなみに北一硝子で僕がさっき食べたのはモンブランなのだが、もしかしたら栗ではなかったのかもしれない。

小樽は寿司の街なのだが、実は小樽の寿司屋に良い思い出はない。なので今夜はイタリアン(バール)を予約してあった。まぁこれもへそ曲がりだからだ。さんざん探してようやく見つけた「たるっ子のイタリアン」つまり小樽の人たち向けの地元店だった。弟たちとはここで合流だ。運河近くの伝統建築物を再利用した素敵な一軒家レストランで、外観にも内装にも独特な雰囲気が漂っている。でもやっぱり「お父さん」は少なくて、若い人たちばかりだ。
電車で来たからわかったのだが、小樽の手前に「築港小樽」という駅があった。いわゆる埋め立て地の新興エリアだ。そこは高層マンションが立ち並び、巨大なショッピングモールや大型チェーン店の看板が多かった。つまり、僕たちのいる小樽は、あくまで伝統を残した観光の街で、人々の暮らしは、隣のエリアに移っているような気がする。古さや伝統を残すのは、今の時代はやはり大変なことなんだと思う。

このイタリアンを選んだのは正解だった。料理はどれも美味しくて、ワインの空ボトルが並んでいく。この店には「お父さん預かります」の看板はないのだが、お父さんは一服どころか、ガンガン注文してしまった。シーフードだけでなく地物野菜も肉料理も旨いからだ。
そして、締めにはお決まりのように蟹とウニのクリームパスタを選んだ。今日のウニだと300円追加が必要らしいのだが、観光のお父さんには何の問題もない。パスタのソースベースはたぶん地元の牛乳(濃厚)なのだろう、このソースがミルキーでまさに絶品だった。
会計のとき、伝票は「お父さん」つまり年長者の僕の目の前に置かれる。調子に乗ったから、きっと凄い金額なのだと思う(笑)。でも僕はその伝票を隣の家内にそっと渡す笑。わが家の財布は「お母さん」のものだ。ね、下手に「お父さん」を預けて、好きなことをさせると高くつくんだよ。
弟たちの前だから、家内はずっと笑顔なのだが、何日かあとになると、きっと飲みすぎだったと反撃されるのかもしれない。

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