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2017年10月14日

青春のかけら「唐獅子牡丹」

そろそろ温泉が恋しくなってきて
週末、久々のリフレッシュのために「温泉宿」に泊まった。大きな行事がひとつ終わったので、おつかれさん会のようなきっかけだった。ぬるめの風呂につかり山代の湯を満喫しながら昔のことを思い出していた。その昔、仲の良い同級生仲間が結婚するたびに、なぜか男だけで温泉に行っていた。独身最後の旅行、のようなコンセプトだったと思う。新穂高の露天風呂や富山の山奥の温泉宿など、仲間との旅はどれも思い出深い。お決まりは全員が裸でポーズをとった危険な写真を撮り、結婚祝いに贈るという迷惑なプレゼント作りだった。ここ山代温泉にも、そんな青春のカケラの記憶が詰まっている。O野屋という比較的小さな宿に仲間で泊まったときのことだ。いつものように高いテンションで早めに到着し、そのままの勢いで大浴場へ向かった。早い時間帯なら大浴場は空いているので、危険なポーズの撮影が可能だからだ。掛け湯も早々に大浴場の向こう側にある露天風呂に大声でガヤガヤと入っていった、先に入った仲間の会話が急に途絶え、静かになっていく。不思議に思い後を追うと、湯気の向こうに男女の背中が見える。先約が、しかもカップルで入っていたのだ。さらに、そのがっしりした体躯の中年男性の背中には不自然で異様な傷跡がある。大量の入れ墨を消そうとした手術の痕跡だと、すぐに分かった。女性の背中に流れる長い濡れ髪と首のラインが美しい、そんな二人のシルエットは、東映映画にでてくるワンシーンを容易に思い出させた。僕たち全員が黙り込み、視線を下に向けたのは言うまでもない。無言で悠々と立ち去る二人の気配が消えた頃、ようやくみんなに表情が戻った。その日の写真が今も残っている、もちろん僕たちだけの写真だ。唐獅子牡丹は映っていない。仕事仲間に現像を依頼したK中くんが今も大事に保管している。写真の中の男だらけのポーズは別の意味で怖くて見れないカットばかりだ。あんな「ピース」は恥ずかしくて見たくない。

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