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2021年07月09日

舌の記憶「ラムしゃぶのこだわり」

初めてジンギスカンを食べたのは、いつのことだろう。どこかで食べたと思うが、たしかマトン(羊肉)は「臭いもの」と記憶に刷り込まれていた気がする。本格的な出会いは、初めて札幌へ行った時の「サッポロビール園」ではないかと思う。いわば定番の観光地なのだが、古いレンガ造りの工場跡を改造したもので、広い店内にイステーブルが、ずら~っと並ぶ巨大なビアホールだった。
出てきたジンギスカンは、あの専用のジン鍋(ジンギスカン専用の兜みたいな鍋)で、マトンを焼き、それをタレに付けて食べるやつだった。羊の臭いは確かにあったと思うが、あまり気にならず、まあまあ美味しかった気がする。後から知ることになるのだが、ジンギスカンには札幌式と滝川式があって、焼いた肉をタレに付けて食べるのが札幌式、タレに漬け込んだ肉を焼くのが滝川式、なのだそうだ。もちろんビール園は札幌式だ。

その後、あれは観光地の食べ物で、地元の札幌では「生のラム肉」を使った店が人気だと知った。市内には、まるで小さな焼肉屋のような店がたくさんあった。どこも煙でもうもうしていて、みんな「生ラム」を炭火で焼いて食べていた。実際、臭みなどは全くなくて、とても旨い焼肉だった。ラムは、いわゆる子羊のことで、柔らかくて臭みもなく食べやすい。マトンは成長した羊なので、独特の臭いや味、その食感が強いのだそうだ。ちなみに、そのあいだに「ホゲット」という、両方のいいとこどりの羊もあるらしい。まぁ、ひな鶏、わか鶏、ひね鶏みたいなことかな(笑)。
北海道民にとってジンギスカンは身近な郷土料理で、自宅で食べるのはもちろんのこと、外でのジンパ(ジンギスカンパーティー)つまりBBQパーティーも盛んなんだと知った。市販のタレにも好みがあって、たしか「ソラチ」か「ベル食品」というブランドのタレが大半なのだそうだ。味付きのパック品は安くて気軽だから使うことも多いし、旨い肉がほしいなら、生(チルド)を選ぶ。肉の本来の旨さがあるわけだ。まぁ考えたら、僕たちの焼肉と全く同じだ。

それにしても、北海道民のジンギスカン愛は、とても強い。その後、現地の人に連れられて「ラムしゃぶ」を食べる機会があった。これは、びっくりするほど旨くて、以来、生ラムの信者になってしまったほどだ。とはいえ「ラムしゃぶ」は「しゃぶしゃぶ」ではなく、独特の北海道料理だと力説を聞かされた。ご存知のように普通のしゃぶしゃぶは「ゴマダレ」や「ポン酢」で食べるものだがラムしゃぶは違うのだ。薄くスライスした生ラムを鍋に入れて軽く火を通すところまでは同じだが、それを「ジンギスカンのタレ」で食べるのがラムしゃぶのキマリらしい(笑)。
生ラムのジンギスカンには塩焼きも味噌味もあったのに、ラムしゃぶだけは譲れないようだ。ご当地めしだから、僕には反論できないのだが、つけダレくらい好きにさせてほしい気もする。まぁ北海道民の「こだわり」なんだろうな。
ちなみに現在は、ソラチにもベル食品にも「ラムしゃぶのタレ」がちゃんと発売されたそうだ。さすが北海道だな(笑)。。

ずいぶん前(2003年あたりがピークかな)に、BSE(狂牛病)が蔓延し、食肉の偽装問題も重なって、大きな社会現象になった。そして世の中から輸入牛肉が消えてしまった。こんな僕も、吉野家で「豚丼」を食べていた(笑)。そんな頃、これをビジネスチャンスと考えたのか、東京にジンギスカンの繁盛店が、次々に誕生した。だから僕も視察に行ったのだが、あんなに凄いブームになるとは思いもよらなかった。使用されていたのは、北海道産の「生のラム肉」ばかりだった。食肉専用の黒ひつじ(サフォーク種)を育て、チルド流通も整備した本格派だった。中目黒や恵比寿のそんな店は、内装もサービスも東京スタイルで、若い女性で溢れていた。
だから金沢にも富山にも、全国各地にそんな東京的なジンギスカンをコピーしたような「なんちゃって」がたくさん登場していった。まぁ、北海道びいきの僕にとっては、北海道の風土や食の歴史をもっと大事にした本格派でもいいのに、などと思ったものだ。そして、牛肉の復活とともに、ブームの熱は急激に冷めていった。もちろん地方のそんな「なんちゃってジンギスカン」は、次々に姿を消すことになる。

とはいえ、旨いものは、やはり旨いのだ。流行はずいぶん前に去ったが、東京には今でもジンギスカンの店がある。むしろ専門店の料理として生き残っている。どうやら金沢にも、サフォーク種の生ラムをウリにする店があるらしい。ラムしゃぶがあるのかどうかは不明なのだが、本格派なら行ってみたい気もする。

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