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2025年11月06日

喫茶店のモーニング

ある日、たまたま立ち寄ったカフェの珈琲がサイフォンのままテーブルに運ばれてきた。なんか懐かしくて、昔のことを思い出していた。
僕たちは喫茶店世代だ。だからアルコールランプのサイフォンで淹てる珈琲を知っている。店によってだが、当時はネルドリップ(布)も多かった気がする。座るカウンター越しに、お湯をゆっくり回す手元を見るのも、あの香りも大好きだった。懐かしいなぁ。
昔の喫茶店にはちょっとしたカルチャーがあって、高校生の僕が背伸びするにはちょうど良かったのかもしれない。いわゆるストレートコーヒーのことなんかを覚えてブラックで飲み、ちょっといきがってたかもなぁ。

喫茶店といえばモーニングだ。さすがに高校生のときは縁がなかったが、夜行列車で上野へ向かう田舎者の大学生のときだ。わざわざ新宿で降りて、早朝の喫茶店にドキドキしながら入ったことを覚えている。お金もないのに東京の喫茶店には特殊な憧れがあったと思う。
それは社会人になっても同じで、東京出張の朝はわざわざホテル近くの喫茶店を探した。小さな喫茶店には必ずモーニングセットが置いてある。ゆで卵の殻をクルリと素早くキレイにむくのが流儀だったりした。ラックの新聞の順番を待って、無理して1面から読むような、そんな若造だった気がする。
そういえば単身赴任のときは、なじみの喫茶店ができた。夜明けのモーニングもそうだが、ときどき僕だけの朝定食も作ってくれた。朝だけでなく、あのご夫婦にはホントにお世話になっていたっけ。喫茶店には僕の人生の縮図があるような気もする。
後年、喫茶店はカフェと言われるようになり、僕の「職業の分野」のひとつになったから、珈琲の知識もトレンドも、メニューはもちろん最新のバックヤード事情にも深くなっていった。とはいえ朝の利用客が使う理由には、珈琲を飲む以外の何かが存在するのは、今も昔も変わらない。

わが家の周囲に、そんな昔ながらの「喫茶店」はない。だからモーニングはとんとご無沙汰だ。まぁ探せばあるのかもしれないが、思い付くのはチェーン系の郊外カフェばかりだ。
代表格は、あのコ〇ダ珈琲かな。いわゆる名古屋系のモーニングは大人気だ。まぁ無料サービスの破壊力ってことだと思う。最近はトーストだけでなくロールパン(みたいなパン)も加わって選択肢が増えた。とはいえパンが替わっても小倉あんだけは変わらない笑。
ライバルの他店は、どこも違うスタイルの組合せが多い。サラダやパンケーキ、ホットサンドや朝カレーまであるのだが、ひと通り食べてしまうと、二度目はなかなかやってこない。
こういうタイプの店が、昔の喫茶店と違うのは、誰もがおしゃべりしていることかな。にぎやかなのは嫌いじゃないが、一人でのんびりするにはちょっと場違いな気もする。

さて、この日の午前、買い物に出かけた僕たちは、目的地の近くにある同類のカフェに立ち寄った。何度か訪れている店だがモーニングタイムに使うのは珍しい。実はここのメニューには興味があった。この店には朝だけエッグベネディクトがあるのだ。
基本は、焼いたイングリッシュマフィンの上にベーコンやサーモン、そしてとろとろのポーチドエッグが乗った朝の定番メニューで、僕の大好物だ笑。とはいえ、本物が食べれるのはちゃんとしたホテルだけだから、こんな場所(失礼)では珍しい。
ここのやつはホテルのそれと違って、ポテトフライやグリーンサラダと組み合わせたシンプルなやつだった。盛り付けにやや難はあるのだが、ポーチドエッグはちゃんとしていて、とても美味しかった。なかなかやるな~って感じだ。
オープンして何年も経つと思うが、メニューに残っているということは、ちゃんとしたファンがいるということだ。働く人たちの朝のメニューというより、オフの日の朝に、ちょっとした贅沢な時間を味わいたくて使うってことだと思う。
年齢的に言えばそろそろ僕たちも毎日がオフになるわけだから、珈琲1杯にしたって、少しだけ特別とかプチ贅沢とか、そんな何かが大事だよなぁと思ったりする。

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