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2017年12月01日

青春のかけら「サントリーオールド 夜が来る」

サントリーオールドというウイスキーがある。すでにトレンドから外れた窓際商品だが、いまでも売り場の棚の隅にシャンと座っている。この酒にはテーマソングがある。「夜が来る」(♪ランランリラン シュビラレ、というスキャットのアレ)という小林亜星作曲のCMソングだ。
サントリー宣伝部からは開高健、山口瞳という作家が巣立ったことで有名だが、当時のサントリーの一連の広告には「酒=人間」という不滅のテーマがあったように思う。僕の思い出話に友人と酒が欠かせないのはその影響だと思う。
大学1年の頃だろうか(記憶はいつもあいまいだ)、友人のS井くんと明大前で待ち合わせした。それまで親戚宅で下宿していた彼が、一人暮らしを始めたため、身の回りの買い物を一緒にして欲しい、というようなきっかけだったと思う。初めて自炊を始めるというS井くんのために、冷凍食品を揚げることを教え、そのためにフライパンとサラダ油を買い、同時に目玉焼きとウインナー炒めの作り方を伝授したような気がする。僕が料理好きだったわけではなく、彼が全くの素人だっただけのことだ。
その夜、「もらいものだ」と彼が出した酒が「サントリーオールド」だった。木造アパート2階の小さな部屋で、氷もないまま、ストレートや水道水の水割りで、二人の引っ越し祝いが始まった。もちろんどんな会話だったのか記憶はないが、二人で深夜まで語り、新品のオールドが空になったことはよく覚えている。翌朝、気配で目が覚めると、彼は2階の窓から「リバース」していた(笑)。彼も僕もひどい二日酔いで、記憶はそこで途切れたままだ。
その後、彼は努力を重ね、今では人から「先生」と呼ばれる職業に就いている。第4回A面の実行委員長でもある。今でもなぜか京都駅や新幹線でばったり会うことがある。いつだったか、この出来事を彼と話したことがある。彼の記憶には冷凍食品は残っていたが、朝の不始末は消えていた。それはそうだろうと思う、僕だって都合の悪い記憶はすぐに消してしまう。機会があったら、またこの出来事を使って、彼をいじろうと思う。この記憶がある限り、僕と彼との距離は近いままだ。

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