青春のかけら「イーグルスとゴム飛行機」
予約席はいつも奥の小部屋だ。オーダーするときは必ずカウンターまで実物を見に行って「つみれと豆腐と大根、それと梅貝」と言って、部屋に戻る。年末、クリスマスが過ぎ、世の中の忘年会フィーバーが下火になる頃、僕たち高校時代からの仲間は、Y萩くんの「みひろ」に集合する。毎年毎年、もう年越しだ、という頃の「忘年会」は、ある意味で迷惑な話なのだが、もはや当たり前の恒例行事になった。部屋には4人掛けのテーブルがひとつあるのだが、そこに6~7人がぎゅうぎゅう詰めに座って酒を飲む。ほぼ毎年同じ顔触れで、コップ酒、Y萩くんチョイスのワイン、生ビールをチャンポンにする、オヤジの忘年会だ。
Y萩くんとは高校時代に知り合っていたが、仲良くなったのは卒業後のことだ。彼の愛車チェイサーに乗るとイーグルスがかかっていたことを思い出す。20代の頃、この仲間たちとずいぶんあちこちへ旅や遊びに行った。Y萩くんとの旅で思い出深いのは、男3人で信州の〇〇高原(思い出せない)のペンションに泊まったことだ。年齢的には30代中頃だったと思うが、「何もしないペンション時間」を楽しむ、というようなコンセプトだったと思う。
K中くんは草花のスケッチを、僕はハードボイルドの読書を、そしてY萩くんは、ゴム動力ヒコーキづくりを、それぞれ楽しむ旅だった。20代の頃の旅には、目的のひとつに「ナンパへの願望」が含まれていたが、すでにそんな欲望もない年齢だった。ドライブを楽しみ、早めにペンションに着いて、三人三様の時間を楽しんで、夜はカッコつけてフレンチを食べワインを飲むような「少し鼻に付く」スタイルだった(笑)。
Y萩くんのゴム飛行機は、なかなかの出来栄えで、天候に恵まれた翌日、帰路に河原を探して、そのヒコーキを飛ばした。一見ちゃちなヒコーキだが、高く遠くまで飛ぶ優秀な性能で、3人は飛ばしては走り、ゴムを巻きなおして飛ばし・・・、を何度も繰り返した。結局最後は水没し翼がずぶぬれになってお開きとなった。ずっと大昔の記憶なのだが、先日、イーグルスの話題になったとき、青空バックの小さなゴム飛行機を思い出した。