散歩の途中で「水牛ユミコの花飾り」
その週末は竹富島にいた。人口は300人前後、三つの集落しかなく、周囲は9kmほどの小さな島だ。石垣島を経由した観光客が押し寄せるのは午後かららしく、午前中の竹富島は静かだった。そんな八重山の小さな島で朝の散歩を始めた。竹富島には「竹富島憲章」という約束がある。「売らない」「汚さない」「乱さない」「壊さない」という島を守るための4原則と、伝統文化や自然、景観を「生かす」を加えた5つの基本理念を定め、住民はそれを守り抜いている。
日本の観光地にあるような、現代的なアミューズメント要素はなにもない。もちろんコンビニもない。あるのは手つかずの自然と人々の暮らし、グックと呼ばれる石垣の塀に囲まれた赤瓦の民家、そしてサンゴの白砂を掃き清めた小径だけだ。石垣の隙間にブーゲンビリアの花が密集し、ちょうどデイゴの花が咲き始めていた。春は一番、花が見ごろの時期なのだという。
散歩は集落の外れから始まった、おそらく観光ルートであろう小径を進み、西桟橋までゆっくり歩いた。桟橋はもう使われていないらしいが、コバルトブルーの海の向こうに小浜島、そして西表島が見える。先人たちが「サバニ」という小さな木造船をあやつり、離島へと渡った光景が目に浮かぶ。
西桟橋から戻ると、道行く人が増えたことに気が付く。昼に向けて観光客が一気に増えたようだ。散歩の途中で見つけた食堂で、早めにランチを楽しむことにした。お目当ての「八重山そば」は、一般的な沖縄そばとは違い、丸麺でソーキの細切りと八重山かまぼこが乗った独特のものだった。やや甘めの味がやさしくて、とても美味しい。三種類のチャンプルが一度に味わえる「ミックスチャンプル」も絶品だった。
繁華街?に戻ると、水牛車のツアーに出会った。観光客を乗せた車を曳く水牛は、訓練されているため、指定のルートをほぼ完ぺきに覚えていて、自動運転のようにゆっくり進む。ガイドのオジイがサンシンを手に歌っている。10人ほどの乗客を乗せた車を曳く水牛は「ユミコ」という名前で15歳、人間でいえば45歳の熟女なのだという。大きな角にハイビスカスの花飾りを付けた、なかなかの美人だった。