ホテルの時間「ミレニアルズなホテル」

ミレニアルズ（ミレニアル世代）をターゲットにしたホテルが次々にオープンしている（ミレニアムではなく「ミレニアル」だよ）。「若い世代がターゲット」ということ？と、旧世代の僕たちは理解しようとするのだが、そんな単純な話でもない。色々な表現で語られていた世代観だったが、最近はミレニアル世代という表現に一元化してきた。もともとは主に米国の「ベビーブーマーの子どもたち」が発祥だから、35歳以下の年齢で、生まれた時からデジタルデバイスが身の回りにあって、使いこなすから、情報リテラシーが高いのが特徴だ。当然、旧世代とは価値観が違う。だから行動様式が大きく違う。雑誌やテレビは見ない、だから広告には反応しない。ネットは使うが、ネットの情報は「デマ」が多いと思っているので信じていない。信頼するのは共有する仲間たちだけ。だから既存のマーケティング手法には乗ってこない。富裕層から低所得者層まで、あらゆる層に存在するから、収入の多寡は関係ない。旧世代の僕たちは、よく「2極分化」と表現するが、そんな簡単な構図ではない。多様化であり、パーソナル化、だと思う。まあ、それもこれも旧世代的な視点なのだろう。2025年になると、就労人口の75％が、このミレニアル世代が占めるそうだから、僕たち旧世代は文字通り、化石化していく。ただいま現在は、この世代と旧世代が混在しているから、互いに大きな影響を受けながら成立している。だから、いろいろな場面で旧世代は混乱するのだが、どうやら慣れないとだめなのは、間違いない。

ある日、銀座のど真ん中にあるホテル「Hイアット・Sントリック東京」を利用した。2020年に金沢駅西に開業する、あのホテルだ。ここも「ミレニアル世代をターゲットにした」ホテルのひとつらしいのだが、利用した肌感覚で言えば、旧世代の僕にとっても、とても楽しい宿だった。旧世代としての素直な感想だ。
3階のフロントロビーは、吹き抜けで、外光で明るく、雰囲気がいい。一人用の深いソファーや、デスクの高さの巨大なビッグテーブルが特徴的に配置されている。外国人が、ペットボトルを横に置き、PCを開いて仕事している。まるでノマドワーカーのようだ。フロントカウンターの代わりに、アイランドテーブルがあって、スタッフと並んで、PCの画面をのぞき込みながら手続する。外国人客が多い。若い女性スタッフは、ネイティブを思わせる英語を操り、カジュアルな会話で対応している。手を振っての「ハーイ」ではじまり、エレベーター前で「シーユー」とおくる。このカジュアルさは外国人向けだけだと思っていたら、僕たちにも同様だった。たしかに旧世代には違和感を与える感じかな(笑)。宿泊客は、みんな「Tシャツ」の外国人だ。だが持っているバッグや所作を見ると、決してバックパッカーな感じではない。もとより宿泊費はアッパーだから、そんなTPOではない。

レストランは面白い。2階フロアが全て、一店のレストランなのだが、バースラウンジ、テラス席のエリア、ダイニングがゆったりと配置されている。特徴的なのは、ビッグテーブル（10人以上が座れる）が、たくさん配置されていることだ。夜の食事にと外へ出て、銀座の裏通りやコリドー街を散策したが、結局「このホテルで食べたい」と思い、戻ってきてしまった。20時頃に訪れると、食事客はダイニングで、僕のような客はバーラウンジで、若者たちはビッグテーブルでPCを開き角に座って、それぞれが楽しい時間を過ごしている。エリアは違っても、注文できるメニューは全席一緒のようだ。利用客の年齢層は、やはり若い。僕が最年長だ(笑)。

想像以上に料理は美しく美味しかったし、グラスワインからクラフトビール、シングルモルトまで、ドリンクの品揃えも豊富だった。最後にオーダーしたアイラモルトの「アードベック・ウーガダール」にテンションは上がったのだが、あんなにデカいロックグラスに大量に入れなくても・・・と旧世代は驚いていた。
ホテルも時代とともに進化する。だから「新しい顧客層」をターゲットに加えることは、とても大事だ。このホテルは開業して間もないから、サービスについては（旧世代には）NGも多かったが、時間（経過年数）とともにレベルも上がることだろう。全体的な空気感も、客室の充実度も高くて、ラグジュアリーホテルであり、デザイナーズホテルの要素もある。とにかく泊まる場所から「過ごす場所」へと進化したホテル、個性的なホテルが増えてきた。しばらくは、使うたびに、このタイプのホテルを探すのだと思う。がぜん興味がわいてきた。ちなみに朝のレストランは静かだった。食後にロビーで新聞や写真集を広げてくつろいだあと、出発準備で部屋に戻るころには、レストランに「TシャツとPC」があふれていた。どうやら、外国人ミレニアンズは、朝が弱いようだ(笑)。