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2018年11月30日

旅館での溜息「磨き上げて命を吹き込む」

専門家たちが、こぞって称える日本一の温泉宿がある。その宿は伊豆・修善寺にある。小松から羽田へ、そして新幹線、さらに「JR踊り子」号と乗り継いで、ようやく伊豆の修善寺駅に着く。有名な温泉街だと思い込んでいたためか、質素な駅で、商店街もなく、驚いた。タクシーで10分ほど、山あいの渓流を挟んで数軒の宿が見える。さらに狭い道を進み、坂を上ると、目的地の「Aさば」に到着する。

タクシーは、大きな樫の巨木と威厳のある門の前に静かに止まるが、なかなかドアを開けない。宿のスタッフが駆け寄ってくるまでは、ドアを開けてはいけないようだ。スタッフに導かれて、掃き清められた石畳を建物に向かうと、大きな暖簾が風に揺らぎながら利用客を迎える。建物に入ってすぐに、目の前の「能舞台」に驚く。敷地の中にある大きな池の中に重厚な能舞台があり、横に滝が流れている。客室は能舞台や庭に面して配置されているようだ。

滞在着に着替えて、露天風呂へ向かう。湯上りにはライブラリーで一服し、池の周りの広い屋外デッキでくつろぐと、スタッフがすっと寄ってきて飲み物を勧めてくれる。デッキの端に客用スリッパが用意されているのだが、従業員たちは皆んな、白い足袋、白い靴下のまま、屋外デッキに出ている。汚れ、気にならないのか?。そう気づいて、思い出した。それは「この宿の掃除は凄い」というお話のことだ。どうやら屋外のデッキなのに、磨きこんでいるようだ。汚れなどないという証だ。

その後部屋に戻ったのだが、掃除のことが気になって、姑の目線になって観察してしまった(笑)。そして驚いた。庭に面して開け放たれた、ように見えたのは、ガラス引き戸で、くもりひとつない。ありのままに見える庭の草木も地面のコケも、細かく見ると、キレイに手入れされ、枯れた葉っぱも、小枝ひとつ落ちていない。ベッドや洗面台は言うに及ばず、障子のサンも、どこもがきれいだ。よく「ホコリひとつない」という表現がるが、まさにそれを地でいくさまに驚かされた。古くて歴史を感じる建築、内装なのだが、徹底的に磨き上げることで、新しい命を吹き込むようだ。

夜の料理の数々も素晴らしかった。美味しい料理は書き始めるとキリがないのだが、特に吸物代わりに出てくる「松茸と鱧の吸い鍋」は絶品の出来で、何度もお替りしてしまうほどだった。季節の素材に必要以上の手は加えず、素材のチカラを生かすような料理ばかりだ。それがとにかく美味しい。

食後は勧められるままに、夜の薪能(たきぎのう)を楽しんだ。能舞台の正面に、専用の席が用意されているのだが、先ほど使った横のソファーで、行儀悪くビールを飲みながら、舞台を楽しんでいた。左手の方から、演者が船で登場し、池の中央の舞台まで、船で移動するなど、演目も自由で楽しいものだった。好きな時に使える貸切風呂で、ぬるい湯につかり、明日帰りたくないなぁ、もう一泊したいなぁ、とダダっ子になっていた。

Aさば asaba-ryokan.com/

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