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2019年02月15日

本の時間「ハードボイルドへの憧れ」

誰でも知っていることだが、ハードボイルドは「ゆで卵」しかも固く茹でられた状態のことを指すらしい。そんな小説の主人公たちは、精神的にも肉体的にも強靭で、感傷などに流されず、冷静に恐怖や暴力と戦うイメージがある。でも本家アメリカの翻訳本を読んだ記憶はあまりない。あの軽妙なアメリカン・ジョークは、どちらかといえば苦手だからだ。

ずいぶん昔の話だが、ハードボイルドを初めて意識したのは大藪春彦の「野獣死すべし」だったと思う。飛行機の長いフライト時間のために買ったのがきっかけだ。その後、彼の作品を次々に読むことになった。内容はもう記憶にないが、シリーズのような作風で、主人公はいつも、熱いシャワーと冷たいシャワーを交互に浴びて、ボロニャソーセージを1kgたいらげ、銃の分解と組み立てを繰り返し、身体を鍛えて、ストイックに暮らしていたように思う(笑)。映画化された作品の主人公を演じた松田優作がかっこよかった。小説の方は、とにかく銃器の専門的な解説や、度数の強いアルコールのウンチクが、めんどくさいほど延々と語られていた。そんな気がする。その後も、生島治郎や北方謙三を読んでみたが、大藪作品ほど熱中することはなかった。

ストイックに生きる、ということは、当時とても耳ざわりが良かった。抱くイメージに共感していたのだろうと思う。ストイックと言うと、もともとは禁欲主義的なコトバのようだが、謎めいていて影や闇がありそうで、なんとなくカッコよかっただけだろうと思う。そんな憧れは、今の年齢になっても少しだけ残っているかもしれない。でも強靭な肉体は、一番最初に放棄したし、精神的なタフさは、全盛期ほどではない。やたらと感傷的だし、涙もろくなった(笑)。そうか、ストイックから遠くなればなるほど、憧れは薄くなっていくんだな。

もはやハードボイルドは男の専売特許ではなくなった。今では女性主人公もたくさんいて、みんな強くてクールだ。ストロベリーナイトの姫川玲子や、探偵の探偵にでてくる紗崎玲奈なんかは、魅力的なキャラクターで、脇役も敵も強烈、ハードボイルドも女性の時代なんだと思う。そんな今日この頃だ。

ちなみにハードボイルドに毒されていた当時の僕は、ゆで卵は「固ゆでにかぎる」と言っていたと思う(笑)。たしかに目玉焼きは両面焼きでしっかり火を通すのが今でも好きだ。でも、意味のない「流儀」は、迷惑で面倒くさいだけだよな。でも、おっさんの反省は一瞬のことで、懺悔も軽い(笑)。

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