本の時間「それは興味深い」
センセーはいつの間にか教授になっていて、アメリカにいたのだが、最近帰国したらしい。大学の同期だった親友の彼は、警部で警視庁捜査一課の係長になっていた。その部下である彼女も、本作では巡査部長に昇進していた。つまり前作からは、それなりに時が流れて、久しぶりに再会するのだ。まぁ要するに、いつもの3人が難事件に立ち向かっていくスタイルは変わらない。テレビや映画で3人を演じる役者さんの顔を思い出しながら、気軽に読んでいくのが、ミーハー読者の僕のスタイルだ。
言わずと知れたGリレオシリーズなのだが、僕のきっかけはテレビドラマだった。シリーズをポツポツ読み始めたのは、テレビの後のことだ。H野圭吾のファンでもないし、何より推理小説ってのは苦手なジャンルだ。しかし、なぜかセンセーのキャラクター設定が好きで、映画化された作品も劇場で観てきた。今回読んだ理由も単純で、映画化される作品らしいこと、そして「彼女」つまり、S咲コウが戻ってきたからだ(笑)。
ネタバレにならないようなネタを探すのは毎回難しい笑。ましてや推理ものだから気を使わねばならない。なので今回は、とあるBARで彼らが飲む「酒」のことを書いてみたい。まぁ本編の謎解きとはあまり関係がない。
どんな小説にも、しばしばBARが登場し、そこでの会話や心情が描かれる。まぁ登場人物のキャラクターの細部を表現するのだと思う。フツーの人なら読み流すのだろうが、BRAオタクの僕は、そこに「象徴」を探すことがある。まぁセンセーの決まり文句で言えば「実に興味深い」のだ。
センセーはアードベッグのソーダ割りを飲む。この日の親友の彼はワイルドターキーをロックで注文する。また別の日には、センセーは何杯目かの、同じソーダ割りをお替りしている。そのときの彼女は、ノンアルのモスコミュールだ。
アイラモルトをソーダ割りにするのは、勝手な入門者か、ヘビーユーザー(上級者)のどちらかだ。センセーはおそらく後者で、このTPOだからソーダ割りを選んだのだと思う。冷静という感じがする。親友の彼の場合、あえてこのバーボンで、しかもロックという選択肢は、荒ぶった心境の象徴なのだろうか。空になっていたロックグラスの氷が、からりと音をたてた描写は意味深い感じだ。
一方の彼女のそれは、真面目さとか気遣いとか、特殊な職業の中にも忘れない、ある種の女性らしさの象徴のように見える。まぁ僕の勝手な妄想だけどね。モスコミュールのカクテル言葉(まぁ花言葉みたいなものだ)には、「喧嘩をしたら、その日のうちに仲直りをする」という意味が込められているらしいのだが、そのあたりは深読みしないほうが良いかもしれない。
ちなみに、センセーはインスタントコーヒー党だとされている(本作では出てこなかった気もするけど)。実は僕にも共通点がある。まだ現役時代、会社で飲んでいたのはずっと、あのNスカフェ・ゴールドブレンドだった。自宅では違うのだが、職場ではインスタントなのだ。もちろん自分で作る。ストレートで砂糖もミルクも使わない。マイボトルを常備してあって、毎回毎回、量や温度や作り方を変えてみたりして「実験する」ような作り方、飲み方をしていた。つまり、どうやったら旨くなるのかとか、香りはどうかとか、どうしたら違うものになるのか、を探していく「アソビ」だ。
物理学者のセンセーは、どうなのかは知らないのだが、たぶん実験を繰り返して、どこかで「最高の状態」を見つけたのかもしれない(笑)。僕は物理の授業が(成績も)苦手だったけど、大人になってから、仮説の実証としての「実験」が好きになっていったのかもしれない。まぁ、インスタントコーヒーだって、僕にとっては、とても興味深い飲みものなのだ。