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2023年06月16日

ホテルの時間「理想郷という名のホテル」

この日は東京駅の周囲を歩いていた。コロナ渦中のこれまでも、風向きが変わった今も、東京駅の喧騒はさほど変わらない。そしてふと、ある5つ星ホテルのことを思い出した。そして同時に、15年ほど前の「東京駅の大改造」のときのことも思い出した。
今回は、タイトル通り「ホテルのハナシ」なのだが、少しだけ「有名ホテルの生まれる街」のことから書こうと思う。

20年ほど前から始まったことだと思う。JR各社がターミナル駅の大規模な再開発を進めた。いわゆる「駅が街になる」という現象が、次々に大都市で起こったのだ。順番は定かではないが、札幌、名古屋、京都、博多、大阪、東京の各駅が大変身していった。概ねシンボルとなるような高層ビルと低層ビルを組み合わせる巨大プロジェクトで、オフィス、有名デパート、商業施設、そして高層階や近隣に有名ホテルが誕生するようなスタイルだった。
再開発は、その周辺も巻き込んで整備されるから、各駅とその周辺は何年もの間「工事中」がつづき、駅を中心に、巨大な高層ビルが次々に竣工していく。そんな新しい街には、新しいカルチャーや人気のスポットが誕生するから、興味がある僕は、開業すると可能な限りランダムに訪ねることにしていた。
たまたま訪れた札幌駅は都会に変身していてびっくりした。京都駅の魔法のような大変貌にも驚いたし、名古屋ではタワービルやマリオットホテル、そして周辺ビルの新しい魅力に息をのんだ。だから当時は、次に続く横綱格の大阪駅も東京駅も「どう変わるんだろう」と開業前から楽しみだった。

東京駅の八重洲口周辺の場合は、ふたつの高層ビル(グラントウキョウ・ノースビルとサウスビル)を両脇に抱えたように大変貌した。2007年のことらしい。ノースビルの低層階には大丸東京が入居した。当時は、なかなか面白い百貨店だと思った。特に地下街、いわゆるデパ地下はいまだにエキサイティングだと思う。レストランフロアには有名店が入居していて、最上階には、あのXEX TOKYOが単独で出店していた。ここだけだけ見ると、とてもデパートとは思えない感じだった。
新しい東京駅という「街」には、地方の人から見た「旬の東京」が詰まっている感じがした。いわゆるグランスタや丸の内エリアまで含めると、どこも凄い人の波で、今どこにいるか分からないような迷路状態だった。まぁそれは今でも同じだ笑。お土産などは必要ないが、自分の欲しいものを買って帰ろうか、などと思っても週末は大混雑だし、休憩するようなカフェなんかは見当たらない。あっても行列待ちの状態で、やる気をなくすのが関の山だった。

今回、思い出したホテルの名は「Sャングリ・ラ東京」という。ノースビルのすぐ隣の高層ビル(丸の内トラストタワー)の上層階に入居する5つ星のラグジュアリーホテルだ。日本人にとって、東京駅を代表するホテルは丸の内側の「東京ステーションホテル」というイメージもある。それはその通りだと思う。
でも実際に宿泊した僕は、Sャングリ・ラの方が、この新しい街に馴染む気がしていた。日本の老舗ホテルにはない楽しさがあったのだと思う。Sャングリラというのは、イギリスの小説に出てくる理想郷の名前らしい。桃源郷とか幻の楽園のようなイメージかな。
東京でのことは分からないが、地方に暮らすひとにとっては、まったく知らないホテルだと思う。テレビや雑誌つまりマスコミにあまり登場していないのが理由だと思う。でも実は凄いホテルなのだ。まぁ、最近開業したBルガリホテルのメディアリリースは激しかったが、当時のこのホテルは、業界誌にサラリと載ったくらいの謙虚さで、ちょっといい感じだった気もする。

当時はまだインバウンドというコトバも業界用語に過ぎなかったが、外国人客がとても多かった。このホテルは海外からの評価がとても高いからだ。客室は全て50㎡以上あるから、すこぶる広いし、眺望も抜群だ。そして個人的な意見で言えば、驚くほど静かなホテル、という印象を持っている。
物理的な静粛性のことではなく、東京駅という「雑多な喧騒」のすぐ横で、まったく逆の「静けさ」という商品を、利用客に提供しているのだと思う。東京駅から歩いて敷地に入ると、なぜかホッとした。ベタに言えば都会の中のオアシスかな、すぐ隣が東京駅だとは思えない感じだ。
宿泊利用したのは、もうずいぶん昔のことだから、書いては見たが、写真も資料も出てこなくて困った笑。さらに、今になっては、記憶も薄らいでしまった。覚えているのは、女性スタッフのユニフォームが独特だったこと(まぁ目が奪われるのだ笑)とか、ラウンジでの朝食が充実していたこととか、そんなレベルだ。
その後は、駅での時間つぶしに、このホテルのラウンジを使うことが何度かあった。東京駅で歩き疲れたら、ここで珈琲を飲むのがお薦めだ。今も知名度が低いなら、ゆったりとした静かな時間が過ごせるはずだ。
Sャングリ・ラ東京 shangri-la.com/jp/tokyo/shangrila/

実は今回、いわゆるミッドタウン八重洲にやってきた。東京駅の周辺は、また大きく変貌したことになる(再開発はまだ続くのだそうだ)。そしていろんなことを思い出し、帰路の電車までの空き時間に、再びこのエリア(ホテルの敷地)に向かった。
でも時間がなくて、Sャングリ・ラ東京のラウンジの珈琲は飲めなかった。エントランスには江戸城外堀の石垣を保存活用されていて、紫陽花が咲き始めていた。そんな敷地内はやっぱり静かで、誰も歩いていない。当時の写真はないのだが、今回使う写真だけは新しく撮ることにした笑。

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