蕎麦屋へ続く坂道のハナシ
その蕎麦屋を選んだのは、僕が知らない「意外な場所」にあるからだった。最近になってそんな「あそび」を始めた。もはや新しい店を探す選択基準が「美味しそう」ではなく「面白そう」になった気もする笑。
もうこんな年齢だから、蕎麦屋めぐりはずいぶん前に一巡してしまった。そして自分が「旨い」と思っている店ばかりを毎回使うから、いわゆる新鮮味は薄らいでいく。だから、使ったことのない店、というより個性的な店に興味を持ってしまうのだと思う。
とはいえ、そんな理由で見つけた店は「僕の経験」で言えば毎回失敗してる気もする笑。まぁ僕にフィットしないだけで、ダメな店という訳ではない。なにより、そんな店の(グルメサイトの)評価点というやつは、案外高いものなのだ。
この店の場所がよく分からなかった。地図で言えば六角堂の北側にあるから卯辰山の中腹?のようだ。なのに知らない町名(子来町という)で、知らない脇道へ入る(たぶん狭い坂道を下る)みたいだ。
地図を見てもよく分からない時は、Googleマップで経路を探すし、場合によってはストリートビューで確認する。で、理解した。ひがし茶屋街の奥、宇多須神社の横の急な坂道をず~っと登ったあたりにある。
この急な坂は子来坂(こらいざか)というらしいが、ストリートビューは残酷な現実を教えてくれた。急なことはともかく、途中から道幅がめっちゃ狭くなるのだ。もしかするとここは、タクシーでも無理かもしれない。歩いて登るしかないのかぁ、卯辰山恐るべしだ笑。
ちなみに、この子来坂は東山から卯辰山へ登るための急坂らしい。なるほど地図で見た通り、六角堂よりずいぶん上のあたりで、広い車道(卯辰山公園線)に合流するようだ。
足腰に自信のない僕たち老夫婦にとっては、坂道や長い階段は「くだる」ものだ。「のぼる」などという選択肢はなるべく避けたい笑。という訳で、タクシーで卯辰山に向かうことにした。つまり上から降りていくつもりだ。
タクシーは天神橋を渡り、左手に六角堂を見て、つづれ織りの急カーブを右へ左へと登っていく。運転手さんは分からないというので、僕が道案内する感じだ。そして子来坂との合流地点で降ろしてもらった。
地図には無くなったが、ここ(合流点)はかつて(それなりに有名な)和食店があった場所だった。そういえばその料理屋さんの、ガラス貼りのトイレから見える卯辰山の谷の景色がキレイだったことを思い出した。どうやら、この谷を降りていくようだ。
さぁ、ここから歩いて雨の坂道を下ろう。それにしても狭くて急な坂だ。でも軽自動車が降りてくる。周辺の住民の足だもんなぁ、すれ違いも大変だろうから、ローカルルールがあるのだろうなぁ。
意外にも、蕎麦屋への矢印看板があって、迷うことなく店に着けた。ちょうど開店時刻だがすでに先客もいた。出された蕎麦茶でひと息ついて、温かい汁蕎麦を食べながら暖をとった。静かだった店だが徐々に客がやってくから、早々に出ることにした。
さて帰路は、この子来坂をゆっくり降りて宇多須神社へ向かおう。ひがし茶屋街をぶらぶらしてみるかな。
この狭い坂道は中央が階段になっていて、その左右に幅30㎝ほどのスロープが続いている。そんなコンクリート製の坂道&階段だ。大げさに言えば、左右は崖だから車が来たらどうしよう、と思ったりする。あとから知ったことだが、車が往来する坂としては、金沢で一番の急坂(傾斜15度)なのだそうだ。なるほど、道の脇に砂袋が置いてある。冬は凍結するから、この砂は住民の必需品ということかな。
その昔、卯辰山の開拓のときにつくられた坂らしい。左右はほぼ崖のような感じだが、左手の石段を登ると寺院だったり、右の小径を降りていけば工房があったりする。そんなささやかな坂道の眺めだが、なんとなく金沢らしくて風情がある。いいなぁ。
最後に蕎麦屋のハナシだ。実は店頭の暖簾には「サイン」が書き込まれている。まぁ落書きのように見えたが、ちゃんとした芸能人2人のサインだった。可読できるのは右上の「Pele」つまり木梨N武さんのやつ。そして左下の店名「卯蕎」と並んでいるのはM谷豊さんのやつだ。
俳優・M谷豊=長寿ドラマの「右京」さん、まぁそんなことらしい。店名と同じ読み仮名ってことだね。店内には訪れた2人の写真が置いてあった。
だからどうだ、というエピソードだが、これ以外に書くことがなかった。つまりこの日は、また同じ「僕の経験」を積んだことになる笑。