BARの風景「ご褒美の1杯というやつ」
この晩は、珍しく一人で飲んでいた。店内は忙しいが僕の周囲だけなぜか静かだ。
夜の片町にやってくるのは年に数えるほどしかない。この酒場(BAR)も久しぶりだったが、何より一人で飲むのはホントに珍しい。片町×このBAR×一人 ≒ 20年ぶり?、そんな感じかなぁと思うと、ちょっと嬉しくなったりする。
かつて典型的なシゴト人間だった僕にとって、このBARでのひとときは潤滑油みたいな存在だった。クールダウンの時も、気合を込める時も、しばしば使わせてもらった。残念回もご褒美回もあったと思う。一人で飲んでいると、そんな些細なことまで思い出す。
このところ何かと忙しかった。たいしたことをやってないのだが、こんな年齢になると段取りが悪くなって、忙しくなってしまうのだ。そしてこの日は、個人的に言えばけっこう頑張った一日で、少々お疲れモードのはずだが、何となく気が張ったままだった気もする。
だから最初のギネスが、カラダに染み渡っていく。ふ~旨いなぁ~。まぁご褒美の1杯というやつかな。
片町へ出ると、必ずといっていいほどこの店を思い出す。とはいえ、せっかくみんなで片町へ来たのだから、一人で飲みたいとワガママを言う訳にもいかない。だから、そんな一人の機会が訪れることはなかった。
この晩のみんなは2次会へ向かった。いつもの相棒は片町の夜へと消えていった。たぶんお姉ちゃんの店へ向かったんだと思う笑。だから、珍しく一人かぁ、そうだ、2次会の前に寄ってみようかな、そう思って裏路地へと向かうことにした。何だか早足で歩いていた。
それなりに遅い時間帯だというのに(いや遅い時間だからこそかな)、その酒場は忙しそうだった。久しぶりで、しかも一人での来店に店主もスタッフも驚いていた。いつものカウンターがもうすぐ空くというので、いったん外で待つことにした。
気付いてなかったが、夜の裏路地にたたずむレンガの建物は、存在感があってなかなか味わい深いんだなぁ。小さな窓からこぼれる店の明かりは、BAR好きにはたまらない景色だよなぁ。一人の時間というのは、あらためてそんなことを気付かせる。
1杯引っかけて、その足で2次会へ向かおう、そう思っていたことは間違いない。でも、旨いギネスを早々に飲み干した僕は、やっぱりシングルモルトが飲みたくなる笑。
アイラを何か一杯お願いします、自然にそう言ってしまった。
ちなみに、苦いとか度数が高い、とかなんとか言われて敬遠されがちのギネスだが、本物は度数も日本のビールと同じだし、あの独特の細かな泡がクリーミーで飲みやすい。アイラモルトも、あの個性を敬遠する人が多いのだが、誰もが巡り巡って好きになる味だと思っている。
銘柄は聞き洩らしたが、ストレートで飲る(やる)今日のアイラは、舌というより鼻腔が旨いと反応する。言い訳だが、ギネスは前菜みたいなもので、ホントのご褒美の1杯(メイン)は、これってことにしよう笑。
最初に注文していた「つまみ」が出てきた。懐かしい生ハムのピッツァだ。ここのピッツァ生地はクリスピーなローマタイプで、軽くて美味しい。それをワシワシたいらげて、ようやくひと息ついていた。店主との何気ない会話は、今も昔も変わらず心地いい。
そろそろ2次会へ向かおう。時計は見てないが、これでお開きかな、そう思ったとたん「お替りは?」と声を掛けられ、ん?と、はずみで「では最後にジントニックを」などと言ってしまう笑。
そういえば、この店主は客の表情やしぐさに敏感なので、僕はやられてしまうのだ。まぁこれも昔っから変わらない光景かな。
カウンターに出てくるタンカレーの瓶も、ライムに2度ナイフを入れる所作も、やっぱり昔から変わらない。かっこよく、すっと出てきたジントニックを少し眺めて、ゴクリと喉を潤す。やっぱ旨いなぁ。まぁこの1杯は、この日のデザートと呼ぶことにしよう。
帰路の交差点で時計をのぞいたら、ちょうど1時間たっていた。駆けつけ3杯なのだが酔いは感じない。でも急ぎ足で2次会へ向かっているから、着いたら一気に酔いが回るかもなぁ。まぁご褒美だから、許してもらおう。