青春のかけら「俺たちの旅」
「夢の坂道は木の葉模様の石畳・・・」小椋佳のこの曲に乗って、ジーパンのカースケ(中村雅俊)が自転車をこいでいた頃、僕は天神町の「品川荘」に居候していた。その部屋の住人は同級生のO山君だった。4畳半ひと間で台所もトイレも共同のつぶれそうな古い木造アパートだった。もちろん風呂などはなかった。
まるで家出してきた若者がそうであるように、彼の部屋には何もなかった。無造作にギターが1本、そして押入れを開けると新聞紙が敷いてあって、そこにフライパンとラーメン鍋がぽつんと置いてあったことを覚えている。ビールケースを逆さまにしてテーブルにしていたと思う。食事らしきものはバイト先のまかないだけで暮らしていた。住人の彼にも居候の僕にもお金がなかった。だからテレビドラマの主人公に自分たちを重ねて、明るく楽しく毎日を過ごしていた。
深夜のドライブは愛車ママチャリの二人乗りだった。文章にするには面倒で書けないような色々なドラマが繰り広げられた毎日だった。ただ若かった、というだけだが、せつなくて、でも笑っていて、面白い経験というには少しだけ複雑な体験をしたのだと思う。
品川荘の住人O山くんは、その後、関西の大学へと旅立ったのだが、その後も(彼には失礼だが)話題に事欠かない人生を歩んできたと思う。みんなに愛される稀有なキャラクターだ。今では年に一度の忘年会でしか会わなくなってしまった。
ある忘年会の日、仕事の都合で遅刻してきた彼は、なぜかラジカセを持参して現れた。深夜のテレビショッピングで買った懐かしのフォークソング集を、みんなに聴かせるためだった。仲間はみんなあきれ顔だったが、曲を聴くうち全員が無口になっていった。曲の中にそれぞれの青春があったからだ。
今度はママチャリのドライブじゃなくて、本物の車で海へドライブに行こう、みんなで。