瓜二つらしい
世の中がざわつく年末、僕は窪2丁目にある「S」という居酒屋にいた。とある忘年会の会場だった。いつものことだが僕が一番早めに着いたようだ。ここの生ビールは、大好きなエビスなので、一人でビールを飲みながら待つことにした。これもいつものことだ。この居酒屋は今夜の幹事・デザイナー某のホームグラウンドだ。腰が悪くて座敷に座れない僕を気遣って、今日の予約席はカウンターのU字部分らしい(笑)。いつものようにママが静かにオーダーを取り、無口なマスターが、注文した韓国風チヂミを目の前で作り始めた頃、仲間が揃った。さあ忘年会だ。
15年ほど前のことになるが、はじめて、この居酒屋Sを訪れた日のことを思い出していた。元々は柿木畠にあった店で、当時から広坂や竪町で働く人たちや遊ぶ人たちが通う人気店だったらしい。窪に移転してからも、その時のファンが訪ねてくるのだろう。だから、独特の空気感があって、料理やアルコールの品揃えも個性的で面白い。たまたま僕の実の弟も近所に住んでいて、ここを利用しているらしい。弟も柿木畠の頃をよく知っていた。幹事のデザイナー夫妻も、当時から竪町あたりで良く仕事をしていたらしい。彼らが今でも家族ぐるみで通うのも、なんとなく理解できる気がする。
初めての日も僕一人が先に着いた。新聞を読んでいたマスターが顔を上げ、僕を確認するのだが、いらっしゃい、というぶっきらぼうで笑顔もない対応に、少々戸惑っていた。初めての客なんだから、もう少し丁寧に扱ってほしいなぁ、正直そう思った。
ぶっきらぼうな対応の理由は、すぐに判明した。人数が揃い始めた頃、その様子を眺めていたマスターの表情が変わった。「もしかするとO島さんのお兄さんかい?」、どうやらマスターは、僕を弟と見間違えたようだ(笑)。すごく似ている、瓜二つだ、と云うのだが当人には自覚がない。わが家のDNAはそんなに強いのだろうか。
そういえば、O島君を片町の某所で見たよ、とか、どこそこに行ってたんだって、とか、そんな、記憶にないことを言われていたことがあるのを、思い出した。それは酒で記憶をなくした僕ではなく、弟のことなのかもしれない(笑)。
この日から、僕はしばらくの間、弟のことを影武者を呼ぶことにした。当たり前だが、当の本人が納得しているかどうかは知らない。何とかいうテレビ番組をマネて、影武者として27期の同窓会に出してみようか(笑)。
先日、東京の27期の新年会に出席してきた。申し訳ないのだが、参加者の中には記憶に残っていない仲間もいて、初めましてO島です、などと照れ隠しの挨拶をしていた。相手だっておんなじだ、300人以上の同級生を覚えていられるのは、相棒のGさんだけだろう(笑)。
そんな、同窓会に、その弟が出席しても、気づかない人は多いのかもしれない。仕事の話題以外なら、ガンダムの話題とレガシー・アウトバックの話題なら、溶け込めそうな気がする。一方僕は、モビルスーツとか水平対向エンジンまではわかっても、それ以上は語れないから、彼の影武者にはなれないなぁ(笑)。