本の時間「琵琶湖のほとりで」
大きなクレーンに目が行って、金沢駅の時計台駐車場の横に建設中のホテルを見上げていた。当たり前なのだが、冬の日に見たときより、ずいぶん高くなったなぁ。手前の駅側には新しい商業施設も併設されるらしい。駅周辺がどんどん変貌していくんだろうな。
サンダーバードに乗って旅に出かけた。買ったばかりの文庫本はダン・ブラウンの「オリジン」というタイトルで、上中下、3巻の大作だ。普段の旅なら3冊も必要ないのだが、ダン・ブラウンの本は面白くて、いつも一気読みしてしまう。だから念のため3巻すべて持っていくことにした。
天使と悪魔、に始まって、ダヴィンチコード、ロストシンボル、インフェルノなど、ロバート・ラングドン教授を主人公にしたシリーズは、どれも大好きな作品だ。映画化されると聞くと、先に原作を読んで、そのあと映画を観る、というのがお決まりの楽しみ方になった。
10時ごろに金沢を出て、広島の福山駅でホテルの送迎バスにピックアップしてもらうことになっている。約束は14時だというから、たっぷり時間がある。ゆっくり本を読みながら向かうことにした。北陸トンネルを抜け、敦賀に着いたのだが、サンダーバードはなかなか出発しない。後ろの席のおじさんとおばさんのグループが大声で談笑していて、車内アナウンスが聞こえないのだが、どうやら風の影響で、一時的に停車しているようだ。
本に夢中になっている間に、電車は動きだしたのだが、明らかに速度が遅い。そうこうするうちに再び、停車し、しばらくして、また動き始める。どうやら、この電車だけではなくて、先に走っている電車が全てが徐行するため、後発のこの電車もゴー・ストップを繰り返しているようだ。そしてついに、左手の窓に琵琶湖を望むあたりで、サンダーバートは完全にストップしてしまった。後ろの席のおじさんは、どうやら大阪で娘の結婚式に出るらしく、車掌をつかまえて、なにやら文句を言っている。
結局、2時間半遅れて、京都駅に着き、新幹線に乗り換えることになった。ホテルの送迎バスはもちろん、今日の分の予定だった鞆の浦(とものうら)の散策は、断念することになってしまった。でも、その代わりに、本をゆっくり読めたので、僕の怒りは、さほどでもなかった。オリジンの内容は、人類の起源と未来、人工知能AI、科学と宗教などがキーワードなのだが、今回の舞台はスペインで、大好きなガウディの作品などが出てきて、相変わらず、とても楽しいエンターテイメント作品だ。怒りを鎮めるほどの面白さ、ということだな(笑)。僕たちが遭遇したのは「遅延」なのだが、後続の電車には「運休」もあったらしい。新聞の記事にもなるくらいだから、迷惑した人はたくさんいたのだろう。AIが普及した世界では遅延も運休もなくなるのだろうか。
ところで、あの福井弁のおじさんは結婚式に間に合ったのかな。