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2020年11月06日

舌の記憶「その昔のオムライス」

ある日、僕は広坂のカフェで、何十年ぶりにハントンライスを食べていた。懐かしかった(笑)。昔は、どこで食べていたっけなぁ、などと遠い記憶を引っ張り出してみたが、ピンとくる店はなかった。今なら、発祥の店?グリルOーツカで食べていた、と言うと納得されるのだろうが、そんな記憶もない。Oーツカで食べていたのは、たしか、ランチ定食?だった気がする(笑)。まぁ当時は、変な名前のオムライスの一種と思っていたと思う。
昔ながらの洋食店は、当時たくさんあったし、ハントンライス「みたいな」オムライスは、どこの店にもあった。実際、よく食べた。たしか駅前の地下街にもキッチンYキがあったと思うが、名物ベーキライス(やきめし)のオムライスバージョンみたいなやつがご馳走だった気がする。僕にとっての「ハントンライス」は、ジャーマンベーカリーの人気メニューで「女性的な食べ物」だったかもしれない。一方で、カツカレー、カツスパ、カツやきめしが男の食べ物の代名詞だったように思う。オムライスの上にもカツを乗せたいくらいだ(笑)。

この日食べたハントンライスは今風なのか、立派なエビフライやソーセージなどが多めに乗っていて、何より「たんぽぽオムライス」のスタイルだった。つまり新型なのかな(笑)。しかし、あのタルタルソースはやっぱり甘くて、胃もたれしそうな味と量は、当時の記憶と同じように感じた。「たんぽぽオムライス」は、作り立ての「オムレツ」がケチャップライスの上に乗っていて、食べるときにナイフで切って広げるスタイルのオムライスのことだ。発明したのは、映画監督の伊丹十三だと言われている。彼の映画「たんぽぽ」で有名になったのだ。
そういえば、その昔「ランチの女王」という月9ドラマがあった。どうやら20年ほど前のことのようだ。主演の彼女の訃報とともにテレビに流れて、観ていた僕は、色んなことを思い出した。この番組の象徴がオムライスだった。ランチ命の主人公が、あちこちの洋食店で美味しそうにオムライスを食べるのだ。中には「たんぽぽオムライス」もあったと思う。一方、ドラマの舞台「キッチンマカロニ」には、イケメンの男ばかりの4人兄弟がいて、その父親がとても大事にしてた「デミグラスソース」を守っていた。彼女は、それをたっぷりかけたやつを食べて感動し、そこから物語が始まったような気がする。

僕が思い出したのは、この月9ドラマの影響で、日本中に「オムライス」ブームが巻き起こったことだ。このブームは、しばらくして終息したのだが、なぜか金沢だけは、ずっと長くブームが続いた。市内の店では、ランチの定番料理として、当時人気の「パスタ」より、はるかに売れるメニューだった。だから、ハントンをはじめ、いろんなスタイルの金沢オムライスが注目され、地元の情報誌を飾っていた。デミグラスはもちろん、ホワイトソースなどのソースも多彩で、何でも乗せるやつまで登場していたっけ。きっと、金沢人の中には「オムライスの血」が流れているのだ(笑)。
やがて金沢のブームも終息したのだが、ハントンライスだけは新幹線開業とともに復活し、今では有名な金沢グルメとして紹介されるようになった。と同時に、あちこちの独自のオムライスは、スタイルが似ていればハントンライスと呼ばれるように(自ら呼ぶように)なってしまった。もちろんG由軒のように、正統派のオムライスを守っているところもあるが、まぁ、ハントンと言ったほうが売れるのかもしれない。定義があるわけじゃぁないから、いいのだが、何となくフクザツな気持ちだ(笑)。

僕はこれでしばらくハントンを食べないと思うのだが、昔ながらの洋食店へは行ってみたい気がする。実は、近所にキッチンYキの本店がある。いつも駐車場は一杯だ。あのベーキライスやオムライスは、今もあるのだろうか。あの脂っぽくて量が多い男性的なメニューが浮かんだ。きっと一人では食べきれないかもなぁ。

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