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2020年01月03日

想定外の紅葉

軽井沢の四季は、それぞれに変化があって楽しい。特に新緑に包まれる春や、紅葉の秋の美しさは格別だ。夏はエネルギッシュに輝くし、意外に雪が少ない冬の日も人通りは絶えない。観光客でにぎわうルートから、少し外れて横道に入ると、当たり前だが、地域の人たちの「普段の暮らし」があって、そこにも春夏秋冬の移ろいがある。今回は、そんな軽井沢の「秋のある日」のお話。

空が高く感じる朝だった。雲ひとつない秋空のこの日、仕事がてらに軽井沢にやってきた。ちょうど11月初め(文化の日あたり)の連休で、新幹線は満席だった。北陸新幹線は、ほとんどトンネルの中を走るようなもので、車窓の眺めは決して良くない。だから概ね本を読んで過ごしていた。
長野を過ぎ、軽井沢に近づくころになって、ふと、里山の木々がきれいに色づいていることに気が付いた。僕にとっての紅葉は12月のものだ。海の近くの自宅にいては分からいことだが、標高が高くなるにつれ、紅葉は順にきれいになっていくのだろう。実は軽井沢の紅葉は全くの予想外だった。駅から乗ったタクシーの運転手さんとの雑談で、今が紅葉のピークだと知ることになった。「昔の紅葉は、それは美しかったんだけどねぇ、最近はあんな色は出ないんだ、温暖化というやつかねぇ」そう語る運転手さんだが、軽井沢の紅葉を誇りにしていることは間違いなさそうだ。
確かに途中の街路樹が紅葉に染まってきれいだった。旧軽通りでの用事を終えて、紅葉に誘われ、中軽井沢へと向かうことにした。予定外の道草だ。国道18号の正面に浅間山がすっと立っている。噴火警戒レベルの情報もあるのだろうが、今日は雲もなく、青空の中で機嫌良さそうに見える。

中軽井沢の駅前から通称「星野エリア」へと右折した。道路の右手には「湯川」という小さな川が流れていて、道路は湯川に沿って右へ左へと緩やかなカーブが続く。湯川の両岸の紅葉は見事に色づいていた。やがて右手には「ハルニレテラス」という商業施設が現れる。湯川の真横に作られたオープンモールで、おしゃれなテナントがたくさん入った食事や買い物の遊びスポットだ。土曜日だからだろう、今日も駐車場には列が付いていた。
帰りの電車まで時間があるから、ここから湯川に沿って続く遊歩道を歩いて、星野温泉あたりまで散歩するつもりだ。遊歩道はまるで紅葉のトンネルのようになっている。戻ってきたら、ここで何か買い物でもしようか。遊歩道や水辺の一部に、先日の台風の爪痕が少し残っていた。その強風のせいか葉っぱは少ないようにも感じたが、立ち止まって見上げると、頭上の紅葉が見事で、自然がもたらす季節の美しさを実感する。

Uターン地点の星野温泉には「トンボの湯」という温泉施設がある。誰でも入れるから人気の温泉だ。周囲の丘が芝生で覆われ、今日は青空の下に「本棚」がたくさん並んでいる。「紅葉図書館」という名前の、秋のイベントのようだ。時間があれば僕も座って本を読みたい。
その向かい側の山の方にホテル「ブレストンコート」の森がある。その坂道の紅葉が、ひときわ深紅に輝いていた。しかし急な坂道への抵抗感と、買い物の時間や、帰りの電車時刻が気になって、結局、森には入らなかった。
帰りのタクシーの車中で、この時期の紅葉の一番の名所はどこなの?、と運転手さんに尋ねた。「それはブレストンコートの紅葉でしょうねぇ」と、こともなげに言われた(笑)。驚き、そして落胆した。やっぱり、あの坂道を登って、無理して山へ入ればよかった。予習が足りなかったと後悔した。今年はカメラの中の紅葉で我慢するしかなさそうだ。

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