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2020年05月01日

BARの夜話「明日に架ける橋」

とっても仲がよさそうですね。2軒目のBAR「L」で、馴染みのスタッフに、そう声をかけられた。愛し合ってるからね、と冗談で応えたのだが、まずい回答だったかもしれない、これじゃあ、まるで「おっさんずラブ」だ(笑)。
4人掛けの小さなテーブルで、僕の目の前のおっさん2人は、シングルモルトを前に、くっつくように密着して横に並んでいる。明らかに周囲と違った服装センスや髪型で、肩に手を回して、ひそひそ話をしている。まぁ確かに怪しく見える(笑)。長い付き合いだから知っているが、この二人は決してそんな関係?ではない。1軒目でしこたま食べて飲んで、勢いをつけて片町に繰り出した、ただの酔っぱらいオヤジだ。

師走のことだった。この晩の出席者は、全員「カタカナ職業」の人間だ。ほぼ年齢も同じで、若い頃に仕事で知り合い、会社は違うが意気投合した。今では全員独立し、それぞれ小さな会社を営んでいる。何やらOB会や同期会に似た飲み会だった。
1軒目は寺町の中華料理屋「R」だったのだが、想像を超える旨さで驚いていた。1品目に注文した「山椒をたっぷり振った白子の麻婆豆腐」が絶品で、テンションが一気に上がった。事前に飲みたいと思っていた紹興酒の古酒は、さらりと却下され、赤ワインを飲むことになった。気どった飲み方はカタカナ職業のやつらの悪い癖だ、どうせ酔うのは一緒なのに。
2軒目の、くだんのBARでも、ずいぶん盛り上がって、時計の針が0時を回るころ、そろそろ帰るのか、と思ったら、なんと、もう1軒付き合え、という話になった。

連れていかれた3軒目は、片町バス停近くの古いビルの1階の店「B」だった。なぜか22時以降でないとオープンしていない、そんな変な店なのだそうだ。入ったとたん、煙草の煙で曇る暗い店内の壁に飾られたモノクロのポスターに目が行った。ビルエバンス?、コルトレーン?、マイルスデイビス?僕には分からないが、そんな何枚かのカッコいい大型ポスターだった。カウンター奥の棚には大量のLPレコードが並んでいる。そしてゴチャゴチャに並んだ酒瓶の陰から、ぬっと、巨漢のマスターが現れて驚いた。
煙草臭いカウンターだけの暗い店。流れているのはジャズ。客は男だけ。マスターもおっさんだ(笑)。俺のボトルを出してくれ、俺はロックだ。おそらく馴染み客の仲間の注文に、返事もないまま、バーボンのロックと乾きもの3皿が乱暴に出てくる。

かぐや姫や陽水から始まった僕の音楽観からすると、あきらかにアウェーなのだが、マスターが選ぶ曲調がジャズから急に変わっていった。スカボロフェア?、サイモン&ガーファンクルだった。そしてオリビアニュートンジョン、カーペンターズ・・・。さっきまで酔ってグダグダしていた仲間の酔っぱらいオヤジが、無口になって曲を口ずさみ始めた。もう一人の仲間もつられて小声の合唱が始まった(笑)。どうやら、この店は、馴染み客の好きな曲を、一曲ずつ流してくれるようだ。つまり流れているのは、仲間の彼の好きなアーティストということだろう。
そしてずいぶん遅くまで、3人はそんな「おっさんずLOVE」の時間に浸っていた。そろそろ帰るか、という声をきっかけに流れた最後の曲、「明日にかける橋」を聴き終わるころ、タクシー乗り場へ向かうことにした。師走の深夜の乗り場には車が少なくて、夜空を見上げながら、明日に架ける橋を小声で口ずさんでいた。

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