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2020年06月19日

舌の記憶「うどん県の鶏がすごい」

ジャフメイト(JAF Mate)という雑誌がある。JAF(日本自動車連盟)からツキイチで送られてくるのだが、それまで無関心な雑誌だった。そこに松任谷正隆さんのエッセイが始まったときから、楽しみに雑誌を手に取るようになった。JAFの雑誌で、クルマ好きで有名な松任谷さんの話だから、もちろん「クルマ」にまつわるエッセイで、ときどき「かみさん」である彼女も登場する。だから、エッセイのテーマや情景描写によっては、海を見ていた午後や中央フリーウエイの歌詞やメロディーが浮かんだりする(笑)。まぁ、クルマ好きや二人のファンにとっては、楽しいエピソードばかりだ。
あるとき、いつものようにエッセイを読んだついでに、ほかのページをめくっていて、とある四国・香川県の名物料理の写真に目が止まった。僕にとっての懐かしい「ドライブ旅」の記憶がよみがえった。

僕は讃岐うどんが好きだ。まだ40代の頃の夏の日、思い立って、讃岐うどんを食べよう、とクルマで四国へ向かった。下調べもしないまま、なぜか夜9時ごろに自宅を出た。北陸道から名神へ、途中の工事区間で下道を走ることになったりしながら、山陽道から瀬戸大橋を渡り、四国香川県の丸亀に着いた。到着したのがまだ夜中だったので、パーキングで仮眠をとったが、結局、よく眠れず、瀬戸大橋のたもとの何とか公園?で朝を迎えた。大雨の朝だった。
うどんを食べに来たはずなのに、何を思ったか、朝風呂に入りたくなって、今度は豪雨の高速道を、およそ2時間くらい走り、松山の道後温泉本館、いわゆる「坊ちゃん湯」に向かった。そこそこの観光地らしく、朝風呂を求める人がたくさんいた。風呂は古風な造りで、とにかく湯の温度が高く、熱い熱い風呂だった、ぬる湯好きの僕は、秒の単位でしか楽しめなかった(笑)。2階の有料の休憩所で、仮眠を取ろうしたが、人が多くて、とてもそんな行儀の悪いことはできそうになかった。結局、再び丸亀へ戻ることにした。途中で讃岐うどんを食べようと、下道を走り、地元のうどんを食べた。けっしてまずかったわけではないが、事前に調べておけば、もっと多くの有名店で、本物を食べれたはずだ。

結局、安いホテルを探し、そこで「地元のうまい店」を、と聞きだして、訪ねたのが、骨付き鶏の「一鶴(いっかく)」という店だった。失敗続きの一日だったが、ここは大成功だった。店内は独特の空間で、どちらかといえばビアホールに似ている。出てきた骨付き鶏(正確には骨付鳥と書く)は、大きな楕円の銀皿にドーンと乗った、真っ黒な鶏モモで、大量の肉汁がしたたっている。その大きな鶏を手づかみで食べる、という豪快なものだった。ニンニクが効いた独特のソースが香ばしく、食べるとヤミツキになるような強烈な商品だった。食べると、両手も、口のまわりもベトベトになるのだが、そんなことはお構いなしに、かぶりつくのが、ここのマナーのようだ(笑)。
満席の周囲を観察すると、男性はみんなジョッキを片手にビールをあおり、家族連れが、骨付き鶏をおかずに、ごはんとスープを取っている。驚いたのは、誰もが会計のとき、大きな袋を受け取っていたことだ。どうやら骨付き鶏のお持ち帰りをしているようだ。後からわかることなのだが、地元には支店が何店かあって、どこも行列の繁盛店ばかりなのだそうだ。今では通販でも手に入る。そんな通販品を一度食べたことがある。確かに独特の味で旨いのだが、本場で食べたあの味と、どこか違っているような気がした。思い出には色んな要素が絡みつくのだ。
ちなみに、僕の本棚には「恐るべし讃岐うどん」というタイトルの古い本がある。この時の失敗に懲りて買った、讃岐うどんのガイド本で、当時は讃岐うどんのバイブルと呼ばれた本だ。でもこの本を見ると、思い出すのは、うまい讃岐うどんではなく、この骨付き鶏のことだ(笑)。
一鶴 ikkaku.co.jp

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