ただ食べたくて「セカンドブランドの寿司」
2か月ほど前のことだろうか。なんとなく、気分転換に外で昼めしを食べよう、ということになった。場所は武蔵が辻だと決まっていたので、どこにしようか、と少し考えた。でも、これといった店が全く浮かばない。浮かぶのは近江町の中の店のことで、観光客の行列がついてる店ばかりだ。近江町はもはや観光地なのだ。だから、そんな店には、ちょっとばかり抵抗感がある。そういえば、ずいぶん前から、ムサシで食事などしたことがないのかもしれない。
なのでもう一度、力を込めて思い出したのだが、結局、思いつかない(笑)。あぁ、ぼてじゅうがあるなぁ、とか、尾張町側に人気のうどん店ができたはずだ、とか、そんな感じだ。僕にとってムサシは、今ではそんな街なのかもしれない。
駐車場から歩いていると「コロナロード」という地下街の看板を見つけた。いま、この名前だと大変だなぁ、などと独りごとをつぶやきながら、そういえばここにシャコンヌがあったはずだ、などと遠い昔を思い出していた。
この土曜日の近江町は、いつもの土曜日に比べれば、はるかに静かなのだそうだ。それなりに観光客はいるように見えるが、昼どきなのに行列はまったくない。待ち合わせの時刻まで、ビルの2階の飲食店ゾーンも歩いてみたが、閑古鳥が鳴いていた。どの店の店頭にも、お決まりのように海鮮丼のメニュー写真が大きく貼られているのだが、人がいないと、ちょっとわびしく見えてしまう。観光地の悲哀というやつかなぁ。
連れの思い付きで、一軒の寿司屋へ行くことにした。十軒町口の近くにある「R々」という店だ。寿司好きの金沢人なら、東山の名店「M川」の姉妹店と認識していると思う。玄関には何の飾りもなくて、入りづらそうなのはM川と同じだな(笑)。予約もなしにふらりと入ったのだが、運よくカンターが空いていて、待たずに旨い寿司にありつくことができた。赤酢のシャリコマで、江戸前シゴトがきちんとされた寿司だ。たまたま席は「まな板」の真ん前で、店を任された店主?の仕事や手業を楽しむこともできた。まぁ不愛想なのは仕方ない。
僕は「姉妹店」と書いたが、正しくはM川の「セカンドブランド」なのだそうだ。ホームページにちゃんと書いてある。あえて、そう書くというには、M川なりの理由もあるのだと思う。ミシュランの星を取ったM川は、その後、六本木ヒルズ、ニセコのパークハイアットに店を構えた。僕の記憶では銀座K兵衛の系譜だったと思うが、今では金沢を代表する寿司店となり、東山の店を「本店」と読んでいるようだ。
今の時代のオーナー料理人らしく、自らのブランドを磨いていくのは当然のように感じる。だから、この「R々」は、単なる姉妹店ではなく、別のブランドなんだよ、と言いたいのかもしれない。まぁ、ここでも名物の「のど黒炙りの手巻き」が食べれるのだが、値段はM川の3分の1だ。つまり価格が全く違うのだ。
大好きな「しめさば」も食べれたし、まあまあ満足できた。でも小さな寿司の一気食いなので満腹という訳でもない。こんなときは食後の珈琲だ、と思ったが、再び店が浮かばない(笑)。さすがにシャコンヌは嫌だし、スタバという気分でもない。
で、一軒の喫茶店を思い出して、エムザ地下街の一番奥へと向かった。本屋(ブックM)とステーキDのあいだの通路を進んだ突き当りにある「カフェAロマ」という店だ。店主は僕より5歳ほど年上で、かつては喫茶業界の有名人だった人だ。まぁ僕にとっては、レトロ喫茶分野の先生でもある。今でも昔ながらのワッフルやサンドイッチが美味しい。
僕の向かいに座った「連れ」は、さっきまでおなか一杯だと言っていたのに「みつまめ」を注文した。ここの自家製の寒天はやっぱり旨い。白玉もベストだし、おまけのフルーツも丁寧にカットしてある。ちなみに店の客は僕たちのようなシニアばかりで、メニューは「僕たちの時代の味」がそのまま残っている。
会計した後、店主は店の外まで出てきて、何度も腰を折ってくれた。まぁ僕はブランド力で客を圧倒するより、こんな笑顔の態度の方に拍手を送りたいタイプだ。
この寿司店 sushi-rekireki.jp
その本店 sushi-mitsukawa.jp