本の時間「あやしい探検隊」
ずいぶん昔のハナシだが、ビ~ル~をま~わせ~、底まで飲も~うぉ~、という歌があった。「すごい男の歌」という曲だ。でも原曲のことは知らない。僕が知っているのは、サントリーの瓶ビール(びん生)のCMのことだ。歌っているのは柳ジョージで、その錆びた歌声がかっこよかった。
この柳ジョージバージョンのCMの出演者は、エッセイストの「C名誠」だった。商品は瓶ビールなのだが、それをS名誠がジョッキで旨そうに飲んでいるCMだ。当時、C名誠を知っている者にとっては、このCMに起用された理由がすぐに分かったはずだ。彼ほどビールを愛し、ビールとともに人生を謳歌している男はいない、と彼のファンは全員思っていたからだ。それくらい、彼のエッセイ作品には「ビールしか飲まない彼」のハチャメチャな日常が描かれていた。
エッセイストと書いているが、たしかちゃんとした作家なはずで、何とかという賞も取ったと思う。でも僕は、おそらく彼のエッセイしか読んでいない。そしてエッセイの主人公、つまり彼の生き方(まぁ遊んでいる日常かなぁ)に憧れ、とても惚れ込んだのだと思う。
僕がハマったエッセイは「あやしい探検隊」というシリーズだ(何冊もある)。彼と仲間たちのポンコツ旅の話なのだが、読むたびに心が躍った。最初のころは国内の某所(ほとんど僻地なのだが)へ探検?に出かけ、ついには無人島ばかりにとりつかれた彼と、個性あふれる仲間が遊ぶ話だ。釣りをして、食材を調達して、ちょっとしたナゾめいた探検なんかもあって、野外で火を焚き、作った「男めし」をみんなでワシワシ食べて、ビールをガブガブ飲む、そんなシーンがお決まりだったような気がする。
僕はまだ、20代の終わりか30代の前半くらいの年齢だったから、何かと影響を受けたのは間違いない。「人生は無人島だ」という彼の名言は、今でも忘れない(笑)。僕の若い頃の仲間たちとのドライブやキャンプでは、そのエッセンスを盛んに取り入れて遊んだものだ。たまに羽目を外して悪さをしたり、失敗を繰り返してゲラゲラ笑い合っていたっけ。まぁ何かと彼のモノマネをしてたということだ。
彼の探検隊シリーズは、その後だんだん大掛かりなものになっていった。「隊」の名称も進化して、目的地も海外の変な場所になって、スケールが格段に大きくなったから、僕たちのモノマネが通用しなくなっていって、徐々に熱が醒めていったような気がする。でもそれは彼のせいではなく、僕たちが年を重ね、つまらないオトナになってしまった証だったのかもしれない。
アウトドアが注目される最近では、「無人島ツアー」というやつを、ときどき目にすることがある。チャーター船で無人島にわたって半日放ったらかしされるツアーとか、無人島なのにちゃんとしたグランピングの施設があって、そこを貸し切りで丸1日過ごすツアーとか、まぁ色々ある。心はワイルドな密林を望んでいても、もう若くないからと、快適な無人島時間を過ごしたいと思うようになった。そんな軟弱な大人になってしまったんだなぁ。
さて、ずいぶん久しぶりにC名誠の本を買った。おそらく30年ぶりだと思う。今日は買うぞ~、っと気合を入れた「本さがし」のときに、ふと見つけた彼の新刊(文庫本)だった。彼の新刊なんて珍しいはずだ。タイトルからすればエッセイに違いない。表紙を飾る彼の横顔写真は、もうずいぶん年を重ねたオッサンだったが、帯には「旅はまだ続く」と大きく書いてあった。そんなフレーズに今の自分を重ねて、手に取ったのだと思う。
目次を覗くと、最初の章のタイトルは「世界超まずいビール大会」とある(笑)。なんだやっぱり、ビールのハナシかよ、と突っ込みたくなるほど、懐かしく思えた。目次だから、第1章、第2章と書くのが普通だと思うが、この本には、第1宿、第2宿、と続いている。旅にまつわる小さなギミックだと思う。まぁ編集側としても、こんな閉塞感がただよう日々に、あえて彼の新刊をだす狙いがあるのかもしれない。
僕はいま、いつもよりゆっくり読んでいる(笑)。1話ごとに、バカだなぁなどと呟いたりする。書いてあるのは古い友人の独白のようにも思えて、その失敗のネタを誰かに話したくてしょうがない。昔からの悪友たちの顔が浮かぶ、そんな不思議な感じだ。
思い出して調べたら、そのCMのYouTubeが出てきたので、よかったら観てほしい。