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2021年10月29日

ホテルの時間「憎めない親友」

当時、このホテルは日本に2軒あった。ひとつは目白の椿〇荘という老舗のコンベンション施設の敷地内にド~ンと建っていた。そして、もう一軒は東京駅の真横(有楽町側)にひっそりと存在していた。
先に使ったのは目白の方なのだが、外資系のホテルをイメージしていた僕は拍子抜けすることになった。今から思えば当たり前なのだが、椿〇荘は歴史ある豪華な純日本風のコンベンション施設で、つまり平たく言えば豪華な結婚式や、財界の人たちが会合や宴会で使う由緒ある施設だ。客室は快適なそれなのだが、全体としては、いわゆる一流の純・国産ホテルの雰囲気だった。まぁ、館内にいる人たちの年齢や雰囲気が全く違っていて、僕なんかには不向きで落ち着かなかった(笑)。だから使ったのは、その1回キリだ。ちなみに数年前に本体との契約が切れて、ホテル名は変更された。
もうひとつの東京駅の方は、初めて使ったときに一発で気に入り、東京で宿泊先を探す際には、いつも優先順位の上にあった。でも、いつのまにか人気に火が点いて、常に満室で、なかなか予約できなくなってしまった。

ホテルの名前は、Fシーズンズホテル丸の内。わずか60室ほどしかない小さな、だけどラグジュアリーなホテルだ。八重洲口からすぐなのだが、看板などもシンプルで見過ごしてしまうような感じだ。
この小さいホテルは、僕にとっては抜群のサイズ感で、スタッフとの距離も近くて、サービスや心遣いをダイレクトに感じることができる。客室やロビーなどのデザインセンスも、カラーリングもシンプルで気持ちがいい。当時のロビーやレストランには遮蔽物がなくて、ワンフロアを様々なシーンで使えるように、自由に行き来できた。朝食ではゆったりと外を眺めながら食事していたのに、夜になると、しっかりとバータイムのムードに変身していた。
当たり前だが、10分ほど歩くだけで、銀座にも日本橋にも行ける場所にある。僕にとってそれは、とても便利なことで、滞在中、歩き疲れると、このホテルに戻ってのんびりするのが、ちょっとした贅沢だった。

一般的に、外資系のホテルは規模も大きくて概ね都会的な印象がある。とはいえ、この丸の内はホントに小さいタイプだ。でも、コンパクトだから近親感や安心感があって、気軽で、まるで「憎めない親友」のような存在だ。
朝の散歩に出かけるときも、スタッフが名前で声を掛けてくる。おすすめの散歩コースを、さらりと教えてくれたりする。戻った時も、出かけるときも、笑顔とフレンドリーな態度は変わらない。
隣のビルの1階には、ドイツの自動車メーカー某のショールームがあった。あるとき、そのメーカーが新しくリリースしたばかりの電気自動車が展示されていた。クルマの名前はi8(アイエイト)だったかな。ホテルの若い男性スタッフと、そんな話で盛り上がり、覗いてみることにした。電気自動車とは言っても、コンパクトカーではなく、バタフライドアのカッコいいスポーツカーだった。家が1軒、簡単に建つほどの値段だから、買えるはずもないのだが、早朝の誰もいないウインドーに、子供のように顔をくっつけて眺めていた(笑)。

教えてもらった緑の歩道を、順に歩いてホテルへ戻ってきた。東京駅の近くにも、木々に囲まれた小路や広場がたくさんあったのだ。部屋数が少ないから、ここの朝食はビュッフェではなく個別オーダーだった。その日に食べたアメリカンブレックファーストは、特に秀逸で思い出深い。
しばらく滞在できていないのだが、いつの間にか、ダイニング周辺が改装されて本格的なフレンチが楽しめるようになったらしい。続々とオープンする外資系ホテルとの差別化は大変なことなのだと思う。
後日談だが、このホテルの新しい兄弟(最新型)が大手町にオープンした。今回書いた丸の内のやつと違って、大型の最上級ホテルだ。オープンの翌年にはいきなりミシュラン5つ星をとったほどの兄弟なのだが、なぜか僕は、まだそそられていない。しばらく後回しだ。まぁそれは、親友を裏切るわけにはいかないからかもしれない(笑)。

さて、本物の親友は、僕と同じで面倒くさいやつだけど、憎めないのはおんなじだ。そろそろ連絡入れてみようか。なぜか会いたくなった。
このホテル fourseasons.com/jp/tokyo

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