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2022年04月29日

ある老店主との思い出

老店主とはいっても、この人は「めちゃ元気」なのだ。店はもう息子の代になったのだが、今も店に出て遊んでいる(笑)。もちろん本人は真面目に客と接しているのだろうが、僕からすると、すでに肩の力が抜けて、ホントに「遊んでいる」ように見える。とにかく楽しげだ。
息子はすでに50歳になったというから、もう立派な店主で、代が替わっても店は繁盛し、若い利用客で溢れている。僕たちのような「昔の馴染み客」がときおり顔を出すと、業務連絡?が入って、お休みの老店主が、どこからともなく店に出てくる(笑)。
僕が知る限りでは、この老店主が創業者だから、息子は2代目になる。店は自宅と一緒になっていたから、息子がまだ中学生の頃から知っている。そして、今日は「孫」が店に出て働いていた。驚くとともに時の長さを感じた。3代目になるの?と、孫に尋ねてみたら、もちろんそのつもりです、という頼もしい回答が返ってきた。いまどき珍しく「いい話」だ。老店主は、作業の手を止めることなく孫の回答に耳を傾けていて、嬉しそうに見える。

息子さんは頑張ってるね、と声を掛けたら、即座に「まだまだです」と否定された。やはり「先代」は厳しい。息子にも孫にも、厳しい態度で接しているようだ。日ごろから「一流の老舗」を目指してきた老店主なりの重い言葉だ。
最近、好きだった某・寿司屋へ行かなくなったのだと言う。「弟子の握った寿司なんか食べたくないからね」と、毒を含んだ言葉を使った。その寿司屋の先代に惚れ込んでいたから、そんな言い方をしているのだろうか。
もしかすると、一緒に働く2代目の息子への、叱咤激励というやつなのかもしれない。プロの職人さんが弟子に使うボキャブラリーは、道具と一緒で、切れ味抜群だ(笑)。

20年ほど前のことだが、夜の銀座で、この老店主にばったり出くわしたことがある。僕はクラブのお姉さんに見送られているときだったので、ちょっと照れてしまって、ゆっくり話もできなかった。後日、その時の話でいじられた(笑)。
この老店主は、若い頃、つまり彼の店が創業のころから、商品の「仕入れ」は地元ではなく東京だったのだという。毎度毎度、東京へ出掛けて目利きしながら調達するのだそうだ。もちろん実物だけでなく「情報」も大事な要素なのだと思う。
彼が仕入れのときに宿泊するホテルは、いつも日比谷の某一流老舗ホテルで、滞在中に銀座や日本橋のあらゆる老舗と呼ばれる店へ向かう。同業はもちろん、他業種でも積極的に教えを乞う。遊びも少し違う。歌舞伎や大相撲は、その歴史から掛け声の作法まで、この老店主の話題は深い(笑)。
そんな老店主にとっての「一流の老舗」論は、面倒くさいが面白い。もちろん僕のあの日の銀座は、遊びではなくシゴトなのだ、という言い訳は信じてくれたと思う(笑)。彼は仕事バカの僕のことをよく知っている。

会計のとき、奥さんが対応してくれた。老店主と奥さんは、たしか高校の同級生だったと記憶している。今も元気な老夫婦だ。その帰り道、息子が50歳ということは、金婚式を迎えたのだと気が付いた。金婚式かぁ。ず~っと先のことでリアリティーは全くないが、次回は、へそ曲がりな老店主の金婚式談を聞いてみたい気もする。

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