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2022年07月15日

青春のかけら「きっかけは美術館」

展示されている絵画(この作品)に描かれている人物は、少し薄暗い部屋の中にいて、左側の窓から入ってくる光の中で、表情豊かに何かをしている。ある日のある一瞬の所作を切り取った構図や綿密な描写によって、モデルの自然体の人柄まで映し出されるように感じる。ヘッドホンから流れる音声ガイドによれば、差し込む光は、外の世界への憧れを表しているのだという。その憧れは、今の暮らしからの逃避なのか、新しい世界への興味なのか、そんな想像の世界を膨らませ、心が躍る時間を過ごしていた。
たくさんの作品を観ながら、ふと、高校時代のことを思い出していた。美術部のみんなと一緒に、ある展覧会へ行った時の記憶だ。だれの展覧会だったのか、思い出せないのだが、この日の展覧会に共通する何かが、きっとあったのだと思う。
この展覧会は上野の森美術館で開催されたもので、3~4年ほど前のことだ。今から思えば、このときをきっかけに、僕の内面に小さな変化が起こっていた。ず~っと長いあいだ止まっていた「美術の時間」の針が再び動き始めたのだ。新聞や雑誌の〇〇の展覧会という広告に目が止まり、行ってみたくなるし、書店に行くと、美術の専門書のコーナーあたりへ行くようになった。ジャンルが決まっているわけではなく、あれもこれもと興味が湧く。それは高校時代と同じで、ある意味とても僕らしい。きっかけをくれた悪友に感謝だな(笑)。

ある日、大和の地下で、懐かしい人とすれ違った。高校時代の美術部の先輩女性(Nさん)だった。しかし名前を思い出すほんのわずかの時間に、彼女はずんずん歩いていき、声は掛けれなかった。その歩き方が独特で、おもわず当時を思い出すことになった。
どんないきさつだったのか、ほとんど覚えていないのだが、高校1年の途中、僕は美術部に入部した。悪友のK中くんに勧められたのがきっかけだったはずだ。彼から紹介された美術部の先輩たちは、当時の僕からすると、みんな「変人」に見えた。いつも裸足で、長い髪を腰まで伸ばし、絵の具で極限まで汚れたシャツを着ている某先輩とか、フェロモンをまき散らし、笑顔でキツイことを言う油絵の先輩(この日に会ったNさん)とか、部活には出てこないで作品展の時だけ登場するS先輩とか。
とにかく個性的で変わった人ばかりで、珍獣の動物園みたいだったような印象がある。部員による作品展は年に何回かあったのだが、出品される作品は、とにかく「人と違うこと」が大事なんだと教えられた(笑)。便器に花を添えて、作品と呼んだり、中には墓場の卒塔婆(戒名をかく板)を並べて、作品だと言い張る先輩までいたようだ。ヒトの表現にとやかく文句を言いたいわけではないが、まだ高校生だったから、頭でっかちで、基礎や基本を重視しない、そんな幼い表現方法だったのかもしれない。

美術部に3年生はいない。2年生の終わり頃にはみんな美大を目指して、アトリエなどへ通い、受験準備に入るからだ。1年生の終わりごろ、次の部長はお前だ、と指名された。部長のシゴトは部員を増やすことだと言われ、部員勧誘を始めたのだが、同級生の中には、そんな変人は多くなかった。
春になり新入生を対象にした部活紹介のイベントがあった。後に後輩たちから聞いた話によれば、美術部のブチョーとして登壇した僕は、言葉巧みに説明し、勧誘に成功したのだという。たしかに拍手は一番大きかったことを記憶している。大した理由ではない、話したネタは、テレビCMのフレーズとか、テレビドラマの名文句だった。それを集めて世相を皮肉るような、ピン芸人風のトークだったと思う。部活動そのものを紹介・勧誘したような記憶はあまりない。
おそらく、美術部は「遊びをクリエイトする」サークルで、遊びの中からゲージツを生み出すんだ、などと演説をぶったに違いない。翌日から、新入部員はどんどん増え続けた(笑)。そして毎日遊んでばかりいた。

晩秋の頃だ、友人3人で美術館をめぐり、ゲージツの秋を楽しんだ。そして最後の展示を見終えて先に出てきた僕たちは、最後のK中くんを待っていた。高校時代も、こうやって待たされた記憶がよみがえった。美術部時代からの親友K中くんは、いつもマイペースで鑑賞するタイプだった。だから、せっかちな僕はいつも待たされた(笑)。卒業後の進路については、その後、彼は自分の才能を信じて美大へ進んだ。僕は己の才能の限界を自覚して別の進路を選んだ。
そんな二人だが、今も当時と同じように「遊びをクリエイトする」ことに懸命になっているのかもしれない。無理やり言ってしまえば、27期のB面企画にも同じ景色を観ているのかもしれない。

この原稿は、2年ほど前に書いたものだ。時機を逸して掲載しなかったのだが「部活」のことを思い出し、引っ張り出してみた。今年のA面の2次会企画に「放課後は何してた?」というやつがある。まぁ僕の場合は、美術部の後輩たちと遊んでいた記憶のことになる。部室のことも思い出すが、なぜか中央公園とか喫茶店の映像ばかりが出てくる(笑)。
そうだ、美術部のOB会をやろうか。まずは27期の同級生のそれが先だ。夏の再会のときに話し合おう。でも、あんな先輩や可愛い後輩たちとの三学年合同のOB会ってのも悪くないかな。

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