舌の記憶「大きなハンバーガーの食べ方」
ある日、とあるカフェのテラス席で「ハンバーガー」を食べながら思い出した、遠い昔のハナシ。
ロサンゼルスのビバリーヒルズからサンタモニカまでは、車で20~30分くらいの距離だったように思う。そこに「チーズケーキファクトリー」があった。ケーキ店ではなく、当時大人気のカジュアル・レストランだ。だから車をとばして視察に行ったのだ。まだ20代後半か30代の頃だ。
サンタモニカは当時から西海岸を代表するビーチリゾートエリアだったから、にぎやかだったと思うが、僕の記憶では、目の前の海(太平洋)がとても穏やかで、静かな高級住宅街のような場所だったように思う。店名の通り、チーズケーキの製造と卸しをしていた創業者が、店舗(ケーキショップ)を作って成功した。その後、ハンバーガーなどのカジュアルミールを加えたレストランを、高級エリアに出店。これが大繁盛して急成長した、というアメリカンドリームの象徴のような店だったと思う。
こいつが凄かった。これぞ西海岸という内装やメニューで、リゾートエリアの老若男女が楽しむレストランだった。とにかく大盛況に驚くばかりだった。ただ、レストランとしては素晴らしかったのだが、肝心のチーズケーキには感動できなかった気もする(笑)。ハンバーガーはアメリカ人の国民食だから、こんなカジュアルレストランと呼ばれる店にもハンバーガーがある。そしてそれは例外なくファストフードのそれより、はるかにでかい。大きな皿の上に、高く積まれている感じだ。
当時まだ若造だった僕は、外国のテーブルマナーとかチップとかに気後れしていたと思う。問題は、この巨大なハンバーガーをどうやって食べるのか、ということだった(笑)。テーブルにはナイフフォークもあるのだが、誰もが例外なく、バンズを上からつぶして、両手で掴み、そのままかぶりついていた。それがアメリカ人のハンバーガーに対するマナーなのだ、と思った(笑)。カジュアルなレストランだから、というより、アメリカ人のマナーは楽しむためにある、そんな気がした。
後年、ワイキキのこの店を訪れたとき、雰囲気が当時とそっくりな気がして、失った記憶を取り戻そうとした。ホテルの近くのロイヤルハワイアンセンター?にあったから、遅めのランチのつもりで食べに入った。入り口近くには巨大な冷蔵ショーケースがあって、そこに20種類以上のケーキが、これでもかと、大量に並んでいる。店名からすると全部チーズケーキなのかもしれない(笑)。まぁどっちにしても、でかいサイズのやつだ。
店名や、あの入り口のショーケースを見たら、誰もが「ケーキ屋さん」と思うのかもしれないが、ステーキやロコモコ、サラダやフライドチキンなど、まぁ何でもある。そして、それもでかい(笑)。ハンバーガー好きの僕は、当時と同じようにチーズバーガーをオーダーした。これもでかくて、たしか付け合わせのポテトフライを見ただけで、おなか一杯になったような気がする。もちろんガツンと潰して、でっかい口を開けて頬張る。ソースがこぼれ、口の回りに付くのはお構いなしだ。have funてことかな。
最近は、日本の高級ホテルのメニューにも、ハンバーガーが加わるようになった。何かとマナーにうるさい日本では「美しく食べる」ことをマナーと考える。だからマナー講師のセンセーは、大きいハンバーガーはナイフフォークで小さく切って食べなさい、と教えるようだ。とやかく言うつもりはないが、おにぎりを箸でひとくちづつ食べろ、と言ってるわけで、どうなのかなぁと思う(笑)。
ちなみに、大きなハンバーガーを手で持つとき、口の近くの両サイドではなく、口から一番遠いところを、強めにしっかり持つ。こうすると具材がズレることはない。そして、ソースがこぼれるのが嫌なら、天地をひっくり返して持てばいい。バンズが肉汁やソースを吸って、こぼれなくなる。
カリフォルニア発祥の、あるハンバーガーチェーンの日本1号店がオープンする日、レセプションで同席した日系アメリカ人の副社長に教えてもらったことだ。だから僕は今でも、その教えを守って、かぶりついている(笑)。