本の時間「小説からの妄想」
健康診断で引っかかった。いろいろな努力?が実って、見事にメタボ予備軍から脱却できたと喜んでいたのも束の間、診断データを読む女医さんは笑顔で「精密検査ですね」と軽く言う。どうやら今度は珍しく循環器系らしい。
〇〇肥満とか悪玉〇〇とか、以前から指摘されてた項目ばかりを気にしていたからノーマークだった。女医さんは手際よく、その場で精密検査の予定を入れる。そしてそれまで安静にしてろと言われた。弱り目に祟り目というやつだ。この夏は、僕の身の回りは「よくないニュース」が多かった(笑)。
病院が好きな人はいない。もとより精密検査という言葉は重くて暗い。まぁこんなことは同級生たちの共通項なのだが、自分の身に降りかかると笑ってばかりはいられない。久しぶりの精密検査へと、しぶしぶ行くことにした。
そういえば大きな病院の、あの「長い待ち時間」はどうにかならないものか、などといつも思う。僕の場合は「待ち時間に本を読む」ことで、なんとか楽しい時間に代えるのだが、それも何回か続くと、やっぱりイヤになる。
夏が始まったころから、そんな待ち時間の読書が増えていた。しかも「その場所」がいつもと違うところばかりだった。予定が立て込んで、そのために、ぽっかり中途半端な時間が生まれて、車の中で読んだりする。今度はそこにプライベートなことが重なって、病院の夜のロビーで時間つぶしをしたり、金沢市役所とか白山市役所とか、めったに行かない場所での読書タイムになったりした(笑)。しまいには読みたい本がなくなってしまう程の頻度だった。
こんな時は、いつもの斜め読みではなく、ちゃんと読めるという利点もある。だから嫌いな長編小説を読むことにしたのだ。居間の本棚から家内の本(彼女が好きな作家のやつ)を引っ張りだすことにした。O沢在昌だ。
タイトルだけで言えば「帰去来」「夢の島」「爆身」の3冊(どれも長編)を順に読んだことになる。今年の夏は、〇沢在昌のハードボイルドの世界に浸ってしまったのだ。僕も好きな作家さんだが、長くて分厚い(重い)文庫本は、やっぱり苦手なのは変わらない(彼のやつはどれも長い笑)。
それぞれのストーリーは、おとり捜査中に首を絞められてパラレルワールドに紛れ込んでしまう女刑事のハナシ(帰去来)とか、音信不通だった父が亡くなり、その遺産?を巡ってやくざや得体のしれないやつらに立ち向かうことになる駆け出しカメラマンのハナシ(夢の島)。そして、爆死した依頼者、日本のフィクサー、闇の集団や武道の師匠、そんな謎めいた人物を相手に活躍する腕利きボディガードのハナシ(爆身)、と様々だった。でも面白くて一気読みしたのは共通だ。
この精密検査の日に読んでいたのは「爆身」だった。ストーリー展開やアクションがスピーディーで、ハラハラドキドキが面白いから、アドレナリンが上がる感じだ。まぁ精密検査のときに読んじゃダメだったかもしれない笑。
最後の検査は、僕の身体に小型の装置を張り付けて、今後24時間の心電図を記録するとかいうものだった。自分の胸にぶら下がったコードや装置は、まるで小型爆弾でも巻かれる感じにも思えて、笑うしかなかった。小説からの妄想はこんな感じだ笑。
ちなみに、精密検査の結果は大したことはなく、僕は無事に普通の生活に戻れた。プライベートなドタバタも概ね片付いた。だから、本を読む頻度はぐっと減ってしまった気もする。
後日談だが、9月に北海道への旅が決まった。けっこうな長旅だから、O沢在昌の代表作「新宿鮫」の最新作でも持っていこうと考えた。タイトルは「暗約領域」という、シリーズ11弾らしい。新宿鮫シリーズが面白いことは分かっているのだが、やっぱり「長くて分厚いから重い」典型の文庫本だ笑。でも、読めばいきなり、その世界に引き込まれていった。やっぱり鮫島さんはかっこいい。
最後の夜に歩いた「すすきの」の雑踏や裏通りの怪しい空気感が、なぜかふと、小説の舞台「歌舞伎町」のそれに似ている気がした。あの暗いビルの、さびれた中華料理屋から、鮫島さんがふいに出てくるような気がする。この店には中国マフィアとか裏社会の大物とかが出入りしているのかもしれない・・・(笑)。とまぁ僕の妄想には節度がない笑。