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2023年01月07日

旅館でのため息「追っかけの心理(後編)」

(ここからは後編)・・・あらためて書いておくと、ここは「日本旅館」だ。しかし、いわゆる泊食分離で、つまり朝食も夕食も付いていない変な旅館だ。旅館だから、館内にはホテルのような「外部の一般客」のためのレストランはない。あるのは唯一、このダイニングだけで、料理人は(旅館なのに)有名なフレンチの名手だ(笑)。やっぱり変だなぁ。
だから僕の場合は、連泊の1日目の夜は、旅館の食事ではなく、外に出て、若者であふれる居酒屋でレモンサワーを飲んでいた笑。そんな気ままな滞在も楽しい。もちろん朝食も同じで、外で食べようが、ルームサービスにしようが勝手だ。
この場所で彼が繰り出す料理には、いわゆる「主役クラスの高級な食材」は出てこない。むしろ地味で質素な感じすらする。彼が全国を歩いて、見つけてくる食材なのだそうだ。そういえば築地(いまなら豊洲かな)での仕入れはしていないと言っていたっけ。スタッフは、例によって様々な話題を振ってくる。でも何を話したかは定かではない。料理ばかりに興味がいって、どんなワインを何杯飲んだかも覚えていない笑。まぁ今回のワインペアリングは、料理ごとに違うタイプを合わせているから、少量ずつだが、すぐに酔ってしまう。

そして料理は終盤の「百合根」になった。ここで単純な野菜料理が出てくるわけもない。熱々で音を立てながら出てきたのは、ストウブでグリルした大きな百合根だった。バターが音とともに濃厚な香りを放っている。熱々のこれが旨い。ソースの味は忘れてしまったが、百合根がメイン料理のように存在感を放っていた。
次の「さわら」も変化に富んでいた。軽く酢締めされた鰆(さわら)の横に卵型のソースが添えられている。春菊?と卵黄のソースをコーティングしたもので、ナイフを入れるとソースが出てくる笑。皿の周囲に書かれた模様は、フリーズドライされた柑橘で、ソースのアクセントになる。楽しくて、最後のワインを飲み干し、満足していた。
そして、次に出てきたのは「釜に入った炊き立ての白いごはん」だった。どこそこの、誰それさんの、〇〇米、とか説明していた気がする笑。言ってしまえは「〆」なのだが、今までの彼のコースに「〆」も「ごはん」も出てきたことはない。フレンチのスタイルだったから、それが自然だったのだ。だから違和感があった。
ひと呼吸遅れて、鉄瓶に入った濃厚な魚介のスープが出された。今日の魚介類を余すことなく使ったスープなのだそうだ。そのスープを皿に注ぎ、ごはんを浮かべる。お茶漬けのように食べてください、と言われてスプーンで口に運んで驚いた。これはブイヤベースだ。お茶漬けのようにサラサラ食べれる軽さじゃない笑。
なるほど、これが今日の「〆」のひと皿なんだね。そう思っているとき、ずいぶん遅れて「大きな椀」が出てきた。おいおい、みそ汁が遅いよ、と思いながら開くと、それはデザートの器だった。またやられた笑。

フレンチ出身だからか、デザートは3皿続く。さらに、ワインペアリングにはデザートワインも付いていた。やや辛口のポートワインだというが、僕には十分な甘さだ。デザート1皿目は、はるか(日向夏の一種)のコンポートと大葉のソルベ。さわやかな甘さと独特の香りが楽しい。
メイン格の2皿目は意表をついて「誕生日プレート」が出てきた笑。確かに今月は僕の誕生月だ。飴細工のボールを割るとフリーズドライの苺が出てくる。白い皿には、模様と一緒にメッセージが書いてあった。細かいなぁ、と思っていたら、模様に見えたのは、細かい細かい手書きのチョコレートだ。驚いた。せっかくだから、ありがたく頂いたが、ホントのメインのデザートが食べたかったな。
3皿目は、コーヒーと小菓子だ。とは書いたが、出てきたのは、本格的な抹茶と5種類のプチフールだった。1個1個楽しみながら口に放り込むのだが、抹茶が(抹茶だから)ぬるい笑。できれば、いつもの旨い珈琲の方が良かったかな。
食べ終わるころ、僕の個室に、彼が顔を出してくれた。先に顔だけ、ぬっと見せて、苦手な笑みを浮かべ、するりと入ってくる(笑)。彼は今日もちょんまげ頭(ソフトモヒカンに団子が乗ったやつ)だ。スタッフによれば、普段は明るくて雄弁らしいが、客の前ではシャイで、無口で無表情だ。僕もそんな彼しか知らない。でも料理のことや、使う素材の質問を向けると、真顔で真剣に話し始める笑。
本人は無口だが、彼の料理は饒舌に世界観を語る。「また食べに来たんだ」「また今度、食べに来るから」、そういう僕を笑顔で見送ってくれた。彼との会話に上手なコトバはいらない。

さぁ、飲みそびれたコーヒーを、ラウンジで飲もう。熱くて旨いやつがいい。そういえば、ラウンジには「せんべいブラザーズの黒胡麻」が置いてあったはずだ、まだ残ってるかなぁ。これが僕のデザートの4品目だ笑。

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