ホテルの時間「居酒屋以上、旅未満」
そのホテルは、国道146号線から左に折れた森の中にある。目印はセブンイレブンだ。その敷地の横の坂を少し登って、さらに少し下ったところに2階建ての建物がひっそり建っている。ホテルと書いたが、建物の外観は、どこかの大学の学生寮のように見えなくもない(笑)。なにせ2階建ての「黒っぽい箱」が2棟並んでいるだけだ。ホテルのロゴも含めて、シンプルでクール、そんな第一印象だ。
しかし特徴的なのは、オープンになっている「広い中庭」だった。変化に富んだウッドデッキが何層か重なっていて、周囲の森と同じように大小の木々が配置され、中央ピットの焚火台に火が入っている。ベンチやイスがたくさん用意され、屋外なのに炬燵(こたつ)まで置いてある(笑)。
ここは「20代の若者の旅を応援するホテル」なのだそうだ。たしかに29歳以下なら安く泊まれる。軽井沢大会のとき、泊まってみようかと思ったホテルだ。いつも満室続きなので興味があった。そして今回、ようやく予約が取れた。
玄関?から入ると、すっきりしたロビー(実はカフェラウンジ)だ。しかし従業員らしき人は誰もいない。フロントらしきものもない(笑)。私服にエプロンを付けたカフェのスタッフみたいな人が一人出てきたので、尋ねたら、案内されたのは、DJブースのようなところだ。どうやらここがチェックインカウンターらしい(笑)。なるほど自動チェックイン機にQRコードをかざすと、ルームキーが2枚出てくる。これでチェックイン終了だ。部屋は狭いが機能的で、例の2段式のベッド(下がソファーで上がツインベッド)で、ロフト気分が味わえる。
このホテルの名前は「BEB5軽井沢」という。べブファイブ?、まぁどう読むのかは勝手なようだ。キャッチフレーズは「居酒屋以上、旅未満、仲間と一緒にルーズに過ごす」ということらしい。面白いもの好きの僕は、すぐに引っかかった。この運営会社が展開しているホテルブランドには、似たタイプの「OMO」というやつもある。OMOとかBEBとか、よく似ているが、都市型と地方型の違いなのかな?。山手線の大塚駅近くの「OMO5」も、とても楽しいホテルだった。どちらも、その土地の魅力に寄り添っていて、身の回りのささいなことに「発見」とか「特別感」を感じる。決して若い人向けとは言い切れない魅力があると思う。60代の夫婦にも楽しい宿だ。
そんなホテルだから、コンビニだとか、散歩だとか、何度も出入りする。だから、そのたびに、この楽しそうな中庭を通ることにした。真冬だから屋外は寒いのだが、一人の女性客がダウンを着て、こたつに入って本を読んでいたり、女性グループがスマホを片手に楽しんでいたりする。
こんな気楽な調子で時間が流れるから、今夜の晩めしも、近くの居酒屋で気軽に楽しむことにした。近いとはいっても冬の夜道を10分ほど歩くので、とても寒い。歩道はあるが街灯がないので歩くのに困るほど暗い。そういえば部屋に懐中電灯があったのは、防災だけでなく、このためか、などと笑いながら歩いていた。昼は蕎麦屋なのだが、夜のメニューはまさに居酒屋のそれで、地酒なんかも豊富だった。今夜のスペシャル地酒もあったり、飲み比べセットがあったりする。想像通り、蕎麦屋の出汁巻きは旨いし、地酒の次はワイン片手に野沢菜を食べたりして楽しんだ。
再び夜道を歩いてホテルに戻ると、あの中庭は、たくさんの人であふれていた。若い人たちの食後の「たまり場」みたいな雰囲気や、彼らの自由な楽しみ方がうらやましかった。
朝のホテルは忙しそうだった。チェックアウトまでの時間も、みんな部屋から出てきて、ラウンジや中庭で食事したり、話し込んでいたりする。ホテルのモーニングのカップルもいるし、コンビニの袋をぶら下げた人もいる(笑)。ラウンジの隅の方には、ちょっとしたライブラリーがあって、そこで野鳥図鑑を見つけた僕は、ソファーに座って、昨日出会ったシジュウカラのページをめくっていた。
その横のジャイアントテーブルには、スマホや自前のタブレットやノートPCを広げている美人の女性の2人組がいる。笑顔で歓談する他のグループの人たちとは違って無言だ。真剣な表情で、懸命にキーボードをたたいている。ブロガー(表現が古いな)なのかな。今風に言えば、専門のプロの、いわゆる「旅系のインフルエンサー」という人種や職業?もあるから、そんな人達かもしれない。まぁ確かに、ホテルの中も外も、映えるスポットばかりだということは、僕にも分かる、と見栄を張って、美人の二人をチラチラ見ていた(笑)。
楽しいホテルの公式サイトは、これまた楽しい。良かったら観てほしい。こんな年齢なのに、観ればなぜか「仲間との旅」を思い出して、いつかそんな旅がしたくなる。
BEB5軽井沢 beb5karuizawa