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2023年03月10日

舌の記憶「マッドクラブ」

輝とか輝姫とか、最近は高級ブランドを持つことがお決まりのようだ。まぁたしかに、マーケティング効果があるようで、値崩れすることなく蟹シーズンを終えようとしている。漁協や漁師さんはホッとしていることだろう。でも、地元民にとっては、も少し安くなってもいいのになぁ、などと感じているのは間違いない。昔の値段を知っている年寄りにとって、蟹は「誰かに食べさせるために」買うことはあっても、自分のために買うのは、とんと減ってしまった気もする。

長く生きてきたから、中華でもイタリアンでもフレンチでも、この時期になると、ずわいや香箱の料理が出てくることを知っている。もはや蟹は特別なものではなく季節の素材のひとつになってしまったのかもしれない。今シーズンの僕は、家庭で食べたのは、香箱でも2杯くらい、加能蟹はゼロだった。まぁそんな感じになってしまったのだ笑。外では(仕事柄だけど)たくさんの蟹を口にする機会があるのだが、実はもう、あまりごちそう感もない笑。
とはいえ、いずれ行ってみたいと思う「ずわいがに」の店もある。一軒は鳥取駅前の某(これは松葉蟹の名店)、もう一軒は福井三国の某(こっちは越前蟹の名旅館)だ。どちらもシーズン前には予約で埋まってしまうから、思い出した時には後の祭りだ。
それは「料理」として凄いことになっているからだ。茹でる焼くという簡単そうな調理でも、職人技が冴えると別の料理になる。何でもそうだが、素材と技術と、そして演出が「ごちそう」の大事な要素なんだと思う。

もうずいぶん前のことだが、あるとき、品川の駅前にオープンしたシーフードレストランを訪れたことがある。目的はそこの「蟹料理」だった。店名は「〇ンガポール・シーフード・リパブリック」という。直訳すると、シンガポール・海鮮・共和国ってことかな。どうやらシンガポールの有名なシーフードレストラン4軒の代表メニューを公式に集めたレストランで、シンガポール政府公認のプロジェクトらしかった。まぁ一種の観光PRのように思えた。
目的の蟹メニューは「チリクラブ」というやつで、簡単に言えば蟹のチリソース炒め煮なのだが、こいつが凄かった。まず蟹は「マッドクラブ」という東南アジア産のワタリガニみたいなやつで、それを生きたまま空輸していた。中華のそれと違うのはスパイスだと思う。じっくり煮詰めるそのソースが絶品なのだ。まぁ名前の通り辛いのだが、その香りも深い味も素晴らしかった。ちなみにソースを残すのがもったいなくて、レタスチャーハンを注文して、そのソースをぶっかけた笑。あの旨さは格別だった。

当時の僕は、仕事で洋ベースの蟹料理を探していて、担当の料理長に研究してもらったのだが、味の再現はついに無理だった。まぁ特殊な蟹だから仕方がない。ようやく見つけた商品だったが断念するしかなかった。とはいえ、今でも食べたいことに変わりはない。
その後、品川の店はクローズ(移転)したのだが、銀座や梅田にも出店しているようだ。僕は日本人だから、鳥取の某や福井の某のように、わざわざ行きたい店とは言えないが、素晴らしい蟹料理だったと記憶している。こんな得体のしれない料理のことを思い出すたび考えるのだが、どこかの国の人たちが口を揃えて「旨いぞ」というメニューは、(世界中の)別の国の人たちが食べても、やっぱり旨いのだ。
地元の蟹のシーズンが終わるころ(もう飽きてくるころ)になると、ときどき思い出す蟹料理のハナシ。
この店 singaporeseafood.jp
鳥取の某 kaniyoshi.gorp.jp
福井の某 bouyourou.jp

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