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2023年04月07日

金沢弁と夜の散歩のハナシ

出てきた漬物は、いわゆる4種の盛り合わせ(実際には5品)だった。右から順に、おくもじ、きゅうりのキムチ、たくわん、その奥は切り漬け、そして白菜の古漬けです。そんな説明を受けて、ふと考えた。「おくもじ」ってなんだっけ?、どこかで聞いていた古いコトバで、なぜか懐かしい。

皿を見つめる僕たち老夫婦は、呪文のように唱えて互いの目を合わせるのだが、思い出せない笑。料理を運ぶ30代後半くらいの彼女は、そんな空気に気付いて、今日の「おくもじ」は大根菜です、葉先の柔らかいところを・・・、そんな説明の途中で、思い出した、あの「おくもじ」だ笑。
そういえば、この店の漬物は昔から有名だった。いつも食べきれないほどの量の漬物(種類も豊富)が出てくる店だった。どれも女将さんの自家製で、素朴な金沢の家庭の味そのものだった。時代とともに、食べ残しが気になった女将さんが、泣く泣く今の量やカタチに変えたハナシを思い出していた。だから、おくもじだけでなく、たくわんとか古漬けが堂々と並ぶのも、女将さんらしいし、キムチが新しく加わっているのも、女将さんらしい。現代の金沢の料理店では、もはや姿を消したものばかりだ。

ある日ふと、あの名物女将に会いたくなった。あの猛烈な金沢弁を駆使する彼女には、もうずいぶん会っていない。3~4年前に食事にきたときは、お休みと聞きとても残念だった。お元気ならいいのになぁ。
この日の夕方、僕たちは武蔵ヶ辻で待ち合わせた。店の夜営業は17:30~らしい、だから小橋までプラプラ歩くつもりだ。食べ終わる頃には陽も落ちてるから、浅野川べりを主計町あたりまで散歩しようと思う。夜桜見物というより「夜桜さがし」かなぁ。
開店直後に「のれん」をくぐったのだが、店の人は気づいてくれない笑。とはいえ奥の厨房の方から、あの女将さんの「でかい声」が聞こえてくる。どうやら今日は会えるし、お元気なようだ。玄関先で、何度か声を掛けると、帳場の小さな窓から女将さんの顔がぬ~っと飛び出した(窓は小さいので女将の顔は横に傾いている笑)。あら~、O島さん、久しぶりやがいね、なにしとったん、と明るくでかい声で迎えられた、やれやれ。
今度は、玄関の板の間にぺたりと座り、ちゃんと僕たちを迎える。靴はそこに抜いどいて~、こっちで預かるさけ、な~ん、間違えんように臭いを嗅いどく・・・笑。もちろん靴の臭いを嗅ぐ訳はないのだが、これが彼女のもてなしだ。

席に案内され、互いの近況を交歓した。コロナのときは苦労したこと、今は4人の自慢の息子たちと一緒に、ここで店を守っていること、お多福はもうすぐ100周年を迎えること、金沢弁の彼女の言葉は、どれも昔のおっかちゃんの世間話だ。
大振りの牡蠣がゴロゴロ入った牡蠣の釜飯と、分厚く切った加賀野菜や海老の天ぷらを乗せ、目の前で焚き上げる鍋うどん(そういえば前回もこのふた品だった)。最初の抹茶に添えたお手製の砂糖菓子も、くだんの漬物も、最後の「おじや」も、以前のままで美味しく懐かしかった。
ちなみに、高齢のご主人(旦那さん)をはじめ、そんな息子たちが順に席まであいさつにやってくる笑、さっき「おくもじ」を教えてくれたのは、長男のお嫁さんだった。嫁いで店で働き、女将の金沢弁が乗り移ったらしい笑。僕はこんな家族経営の店の素朴な暖かさに弱い。誰もが彼女のリピーターになるのはこんな「おもてなし」が忘れられないからだと思う。
女将さんとの話に花が咲いて、店を出た時には、すでに真っ暗だった。小橋から主計町までの遊歩道に街灯は少ないのだが、向こうの「中の橋」の明かりを目安に、夜の散歩を始めた。桜の季節とはいえ、大々的なライトアップはない。でも川べりの提灯や店からこぼれる明かりが、いい雰囲気だった。でも暗くてうまく撮れないのだが、頑張ってスマホのカメラを向けた。夜空の三日月がきれいだった(でも画像では丸い笑)。
●主計町や大橋近くの夜の風情 アルバム6枚(タップして右へ)

ちゃんとした夜桜をもう少し観たくなった。とはいえ満腹でカラダが重いし、さっきのビールが今になって効いてきた。だからさっさとタクシーを捕まえて、兼六園を目指した笑。僕は、兼六園のライトアップを観たことがない。
兼六園下から桂坂口へ向かう坂道(紺屋坂だったかな)は、若い人たちで混雑していた。お団子を売る店が何軒かあるのだが、どこも大行列だ。そうなのだ、最近の若い人たちの団子愛はものすごくて、その売れ方はハンパないらしい。一方、料金所辺りには、いわゆる夜店の屋台がたくさん軒を連ねるのだが、行列ってことはない。もはやリンゴ飴やベビーカステラではダメなのかなぁ笑。
さて、石川門あたりの夜景は想像通りとても美しかった。一方の兼六園(園内)はムムムだった笑。そういえば同級生から届く兼六園の夜桜の写真が少ないことを思い出した。届くのは石川門の画像ばかりだった。その理由が分かった気がする。
●石川門あたりの夜の風情 アルバム6枚(タップして右へ)

次回は(とはいっても来年のことになるかな)、体力とか酒のこととか、も少し考えて、夜桜に挑もう。もしかすると玉泉院丸庭園のライトアップが良いのかもしれないなぁ。そんなことを思いながら帰路についた。

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