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2023年07月07日

タクシーの運転手さん

旅先では、なるべくその土地の公共交通機関を使おうと思っているのだが、いざとなると何だかんだと理由をつけて、やっぱりタクシーを使うことが多い。そうすると色んなタイプの「運転手さん」に出会うことになる。運が良ければいい人に出会う。
まぁ僕の旅の楽しみ方のひとつには、そんな「自分の運」の当たりと外れを楽しんでるフシがある笑。天候もそうだし、泊まるホテルや使う飲食店でも「運の悪さ」を自覚したりする笑。タクシーの運転手さんとの出会いも、そんな類のハナシだ。
観光ピークの週末、大渋滞する京都なんかの場合には、目的地を告げるが「その近くなら、どこで止めてもらっても構わないから」と付け加えることにしている。別に気を使ってる訳ではないし、急いでる訳でもない。こう言うと、運転手さんの「素」や「配慮」が出て面白いからだ笑。
すると、少しやりとりがあって、渋滞の抜け道(まぁ裏道だな)や最速ルート(やや遠回りもある)を、急ぎ目で走ってくれることになる。狙っている訳ではないが、意外性が面白い。そんな運転手さんとの土地のハナシも、やっぱり面白い。昔は乱暴な運転や、粗野な態度の人もいたが、今では概ね皆さん紳士的だ。まぁ、マナーを大事にするタクシー会社が増えたからだと思う。今回は、最近のそんな出会いのハナシを書いてみようと思う。

年に何度か、おひざ元の金沢で「観光客ごっこ」することにしている。おおむね老夫婦2人の金沢散歩で、あえて観光スポットへ向かうのだ。バスを使うようにしているが、この日は僕一人だったこともあって、金沢駅からタクシーに乗ることにした。
こんなとき「コロナ、大変だったでしょう?」とか「金沢の観光地って最近どうですか?」などと話題を振る。まぁ中には僕のことを県外客だと思い込むこともあったりする笑。観光地の運転手さんは饒舌な人が多い(まぁ駅を拠点にしているドライバーさんだからかな)。全国どこでも、概ねハナシに花が咲いて楽しい時間になるのだが、たまにはイヤな思いをすることもある。

この日の運転手さんは「これでもか」というほど金沢自慢を繰り返す人だった笑。目的地が出羽町だったこともあってか、工芸館や能楽堂の良さを声高に語る。そして、金沢人のブンカ、ゲージツに対する意識の高さを自慢する。それに比べれば・・・と、他県の(観光地の)悪口をはさむ。僕が、笑って少したしなめると、今度は「最近の若い観光客は」とか「ガイジンの観光客は」とか、嘆き節の独白がつづく。
聞いてる僕は黙っていられず、ついつい悪口への反論をしてしまうほどだった笑。まぁそんなこともある。

逆に、対応が素晴らしい運転手さんに出会うことは多い。ある日、富山でのことだ。電車で訪ねた(目的地の)物販店で買い物を終え、その店でタクシーを呼んでもらった。30分ほどかかるらしい。まぁ中心部から離れているから仕方がない。
時間通りやってきた彼は、停まると車から降りて、まずおじぎをし、会社名と氏名を名乗る。予約名を確認しながら笑顔でドアを開け、恭しく後部座席に誘導してくれる。観光で、隣の石川県から来た(これはホントだ笑)という僕たちに、まず感謝とねぎらいの言葉をかける。
ここでの感謝とは「富山へ観光に来てくれたこと」へのものだったから、ちょっと意表を突かれた。目的地を告げると、予定ルートを提案してくれて(この日は運河沿いの道だった)マナーよく走るのだが、その途中のちょっとした観光ポイントのネタもいくつか披露してくれた。もちろん会話が弾む。
この運河の途中には、中島閘門(こうもん)というパナマ運河方式の閘門、つまり異なる水位の水面を調節するための、船のエレベーターみたいな施設があるという。興味を示すと、その路肩に停車して、僕たちを外へと誘導してくれた。ちょうど、観光船が区画の中にいるタイミングで、貴重なシーンを観ることができた(でもまぁ船が浮いているだけだけど笑)。
お礼を言う僕たちに対して彼は、金沢ほどの観光スポットが富山にないことを謙遜するばかりだった。これだよなぁ、観光に大事なのは「場所」や「施設」じゃなくて、「人」や「もてなし」なんだと、あらためて思った経験だった。

ちょっとした例外もある。それは三沢空港(青森県)でのことだった。帰路の空港で、フライト時刻まで何もすることのなかった僕は、被写体を探して外へ出て周囲をぶらついていた(まぁ何もないんだけど笑)。そんな僕に、一人の「おばちゃん」が歩み寄って声をかけてきた。
こっちは寒いっしょ?、とかなんとか、訛ったイントネーションだった笑。明らかにタクシー運転手さん(独特の制服姿)で、そのりっぱな体格と同様に、大きな笑顔が印象的だった。ちょっとしたやりとりから始まった彼女と僕の立ち話は、意外に長く続いた。金沢弁のことや、昨日覚えた津軽弁?のことで盛り上がった笑。とはいえ、ここ三沢は南部弁のエリアなのだそうだ。まぁどっちにしても、僕にとっては上手く聞き取れないのは同じだ。
何の話題でもうんうんとうなずく僕に、世相の講義?も始まった。街の喧騒は三沢の米軍基地に依存しているそうで、コロナの前、つまり隣国のミサイル騒動が始まってから、ホントに街から外人さんの姿が消えたのだという(基地で待機するらしい)。
流れでは、タクシーで観光はどうですか?、みたいな展開をイメージしたのだが、そうではなくて、どうやら、やってきた「街の客人」を大事にしたかったようだ。そう聞くと旅人は嬉しい。楽しい時間だったし建物横の「リンゴの花」を教えてもらって撮影もできた。リンゴには、赤の花と白の花があるのだが、赤い方の花は、おばちゃんの笑顔に似ている気がした。

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