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2023年07月21日

本の時間「訳ありの男たち」

久々に読み応えのある一冊だった、でもこんなに読後感のよくない本も珍しい。いつもの本にまつわる話題とは違って、今日のハナシはちょっと重い笑。
2~3年前のことだ。WOWWOWでの連続ドラマ化をきっかけに、この文庫本が本屋の棚に平積みされていた。本のタイトルは「トッカイ・不良債権特別回収部」という。
僕も、バブルとその後の崩壊を、リアルタイムで味わった一人だから、この本のタイトルに目が行ったのだと思う。当時のメディアにうんざりするほど登場し、見聞きしたフレーズが、本の紹介文章に出ている。だから、テレビドラマの原作本くらいの気軽さで買うことにした。そんな買い方だから、読んだのはずいぶん後になってのことだ。
読み始めると、いわゆるノンフィクション小説だった。知っている事件や、それにかかわる会社名や人物の実名がバンバン登場する。何より実在した住専7社(住宅金融専門会社)とその融資先の双方が破綻する顛末が生々しく描かれていくから、見ていた「ある時期の史実」を改めて勉強させられるような内容だ。
生々しいのは、描かれるのが会社ではなく、むしろ個人だからだ。信じられない額の融資を重ね、破綻した後も資産を隠したり、タックスヘイブンなどを使って返済しない側を「バブルの怪人」と呼び、そしてそれを回収する機構側の「訳ありの男たち」の双方を、地道に細かく取材してある。事実は小説より奇なり、の人間たちの物語が淡々とつづられる。そんな、ある意味で重く暗い一冊でもある。

解説によれば、80年代末の狂乱のバブル時代、金融機関は、とにかくどんどん融資した。一方、そんな母体行が融資に尻込みする案件、つまり「バブルの怪人」たちには、傘下の住専7社から巨額の融資を行い、その多くが回収不能となり焦げ付いた。損失総額は6兆4,000億円という途方もない額だったらしい。
〇民党のH本政権は「住宅金融債権管理機構」を設立し、社長に中坊公平(元日弁連会長)を据えた。住専各社から譲渡された不良債権を、できる限り回収することを目指す「国策会社」のスタートだ。物語の舞台はそんな感じだ。
後の世になって、どのように歴史に刻まれるのかは分からないが、いわゆる現代史なのは間違いない。本書を読むとニュースになった様々な事件を思い出す。でも読み終えると、結末のないまま、もしかすると裏社会のハナシとして埋もれるのかもしれないなぁ、などと感じたりする。
本書は、ある怪人の一人が、京都の古都税をめぐる騒動で暗躍していた話から始まる。そういえば、拝観拒否のストライキで京都が揺れていたっけなぁ、そんな身近なニュースの裏側でも、バブルの事件が生まれていたと知ることになる。

作者のK武英利は、そんな怪人を相手に戦い、回収する者たち(訳ありの男たち)のことを「奪り駒」と表現する。もともとは「トッカイ」をふくむ整理回収機構(時代によって組織編成が変わり、呼び名もどんどん変わっていく)の初代トップだった中坊浩平の言葉だ。
中坊は「平成の鬼平」と呼ばれた辣腕の弁護士で、本編のチームの生みの親であり精神的支柱として描かれている。彼がいう「奪り駒」とは、どうやら将棋の「手駒」のことのようだ。相手の駒を取って、以降はこっちの「駒」として使っていく、というニュアンスらしい。もともとは住専7社や母体行から派遣、転籍してきた社員たちを、回収実務に使うという、ある意味で酷な方法論だ。どんどん貸していた側の人間に、これからはどんどん「取り立てる側」になれ、という図式になる。
そんな失礼な表現とも思えるのだが、将棋の「奪り駒」のように回収の最前線に打ち込まれた「訳ありの男たち」は、バブルに暗躍した怪人、怪商、借金王、ヤクザらと対峙し、泥沼の債権回収に奮闘することになる。古い時代とはいえ、そんなブラックでパワハラが横行するような組織で、闇社会の非合法な危険に立ち向かうわけだから、その苦労にはエールを送りたくなる。

ちなみに、作者のK武英利は、もとプロ野球球団代表(あのY売新聞の球団)だったひとだ。10年ほど前に球界のラスボス「W氏」を告発し、解任された経歴を持つ笑。当時はG党だけでなくプロ野球ファンも世間も驚いたニュースだった。
社会部記者の時代には、某銀行の総会屋事件や某証券会社の破綻をスクープしたらしい。反骨の人なのかもしれない。著書にはたくさんのノンフィクションがあるようなので、いつか読んでみたい気もしている。でも元気な時に読まないとダメだと思う。おそらく読むと、今回みたいに、どっと疲れるはずだ笑。

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