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2023年08月11日

たた食べたくて「リベンジの夜」

この日の目的地は、ストレートに「すすきの」だった。旨い魚と旨い酒、これしかない。だから、ホテルも「すすきの」にした笑。何の迷いもないから空港から直行でチェックインしたばかりだ。
旅の少し前に、すすきののホテルで凶悪事件が起こったから、周囲から「大丈夫ですか?」などと、からかわれたが、もちろん違うホテルだ。実は事件の現場は、食事の予約をしてある店のすぐ近くなのだが、そんなことは誰にも言ってない。まぁ一緒に向かう家内にも内緒だ笑。

すすきのにやってくるのは、ちょうど1年ぶりだった。実はそのとき「やり残したこと」があって、今回の旅の日程を1日増やして、その宿題を片付けに来た、まぁそんな感じだ。
ひとつは、ある炉端焼きの店を訪ねること、そしてもうひとつは、伝説のBARで一杯やること、この二つだった。ともに昭和スタイルのまま残っている貴重な店でもある。書いてしまうと、なんだそんなことか、と思われそうだが、僕にとっての優先順位はとても高い笑。
どちらも行きたかった店なのだが、いろいろ理由があって前回は断念したから、まぁリベンジマッチの夜になる。もちろん、今回はちゃんと予約してある。だからちゃんと座れる。
夜の予約時刻まで、少し時間もあるからと、夕方の散歩を始めることにした。札幌には20代の若造だったころの「青春のしっぽ」みたいな記憶がある。そんな場所を老夫婦2人で訪ねてみたい気がしていた。でもまぁ、まだ夜じゃないから人の気配はない。すすきのは昔も今もそんな街だ。

この炉端焼きへ通ったのは、もう40年ほど前のことだ。当時、札幌に2~3か月くらい住んでいた時期があって、そのときが初めてだったと思う。地元の人から教わったのだ。その後10年ほど札幌との縁が続いたから、店には何度か立ち寄った。
店の真ん中に大きな炉(炉端)があって、周りにカウンター席が配されている。炉は太い切り株の根の部分をくり抜いた火鉢のようなものだ。そこに炭(炭火)がくべられ、大きな網が掛かっている。この網の上で地物の魚や野菜を焼いてくれるのだ。
当時の焼き手は、白い割烹着姿の品のいい「母さん」だった。酔った客など誰もいない静かな店だったと思う。記憶として鮮明なのは、焼いた魚と地酒、そして〆の焼きおにぎりかなぁ、まぁどれも抜群に旨い、そんな記憶だ。そういえば羅臼のホッケの旨さを知ったのもこの店だ。
予約する際に店の公式サイトを開いたら、創業56年らしい。どうやら僕が知っている「母さん」は初代の人かもしれない。そんな先代の教えを今も受け継いでいる、と書いてあった。

店はやっぱり静かだった。カウンターは客で埋まっていくのだが、たぶん誰もが会話を控えている。焼き手はやっぱり女性で、もう一人の人も同じ年齢の女性だ。僕はこんな年齢になったから、昔のように母さんと呼べる訳でもない笑。
まず働く彼女たちが静かなのだ。注文に「はい」と応えるだけで、真剣に炉の商品に集中している。無駄な接客トークなどはゼロなのだ。まぁイメージで言えば、私たちは真剣に商品に集中して美味しく焼くから、お客さんもそれを大事に味わってくださいね、まぁそんな無言のメッセージかなぁ。
店内には音楽もなく、ただ炉端の網で、魚がジジジっと音を立てるだけだ。たしかに僕たちは、そんな網の上をじっと見つめて、焼き上がったやつを、待ってましたとパクつくことになる。旨い、ただただ旨いのだ。
ニシンは昔と同じで感動した。帆立は大振りで味が濃く、その香りが違う。牡蠣は燻製されたやつを軽くあぶってある。そういえば炉の上には、開いた魚が干してあって、そこに牡蠣も吊ってある。焼きおにぎりはふっくら握り、ゆっくり焼く。中のおかか醤油がいい仕事をしていて、信じられないほど旨かった笑。
そして酒だ。ぬる燗を頼むと、炉に吊ってあるカメ(中に地酒が入っている)のフタを取り、中の酒(絶妙な温度だ)を、柄杓(ひしゃく)ですくい、湯呑に注いでくれる。昔からのスタイルの、この酒が僕の目当てのひとつだ。僕はおかわりのグラスを、いや湯呑をぐいぐい重ねた。
ちなみに、メニューは手書きだが、値段は記載してない。これも昔と同じだ。まぁ僕たちはあれこれ食べたから目安にはならない。想像をはるかに超える支払額だったが、美味しいから仕方ない。
●炉端焼きのアルバム(タップして右へ)

もうひとつの宿題は、このBARだった。全国のファンとっては伝説のバーテンダー(店主)に会いに来る店らしい。日本最高齢のバーテンダーとして、96歳で亡くなるその前年まで、カウンターでシェーカーを振っていたそうだ。たくさんのお弟子さんたちが学び、巣立ったこのBARには、そんな店主の生き様が刻まれていて、今夜も若いお弟子さんたちが店を守っていた。去年見つけた店なのだが、満席で入れなかったのだ。
実にオーセンティックなバーだった。しかも古き良き時代の「日本のバー」だ。でも、その重厚な雰囲気とは裏腹に、穏やかな笑顔で僕たちを迎え、気さくに声を掛けてくれる笑。さっきの炉端焼きとは、まるで逆、ということかな。少し笑ってしまう。まぁさっきのように小声でしゃべる必要はもうない笑。

初めてのBARだから、最初の1杯はジントニックだ。僕にとっては儀式なのだが、この店の場合は、使うジンを選べるスタイルだった。スタンダードのハウスジン(ここはタンカレー)と、プレミアムジン(おすすめのシップスミス)を選んだ。つまり、ジントニック2種類の飲み比べだ笑。まぁこんなことはあまりない。
主に接客してくれるのは先輩格のバーテンダーだった。入れなかった去年の話や、亡くなった店主のこと、最近のジンの話題などで盛り上がった。楽しい2次会だ。2杯目には、店主イチ押しだったというサイドカーを試した。何がそうさせたか分からないが、僕は調子に乗ってしまい、マティニまでオーダーした。立て続けにショートカクテルを飲むことなど、日頃はないのだが、まぁやらかしたのだ。
さっきのカメのぬる燗から、最後のマティニまでの連打は、さすがに66歳には度が過ぎた。僕は、すすきのの歩道をジグザグに歩いて帰った。札幌の定番「〆パフェ」は、また今度だ笑。
●このBARのアルバム(タップして右へ)

この炉端焼き syuangodai-sapporo.com
このBAR bar-yamazaki.com

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