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2023年09月01日

ただ食べたくて「有名イタリアンのにぎり寿司」

イタリアンの前菜(アンティパスト)といったら何が浮かぶだろうか。モツァレラのカプレーゼとか、カポナータやキッシュ(イタリアだからトルタサラータ?)かなぁ。まぁ料理用語がピンと来なかったり、目移りしたりするよね。だから僕の場合はミスト(盛り合わせ)を頼むことが多い。
そうすると、これらに加えて、燻製やマリネやカルパッチョ、ハムやチーズ、たまには小さいスープやサラダ、ブルスケッタなんかも乗っていたりして、とても楽しい。
ところがこの店には、なんと「寿司」がある、しかもちゃんとした「にぎり寿司」なのだ笑。初めて知ったときには意表を突かれたのだが、仕掛け人の奥〇シェフは業界の有名人だから「彼ならやるかもなぁ」と、とても興味を持っていた。

ちょうど去年の今頃だったと思う。箱根への旅の帰路に虎ノ門に立ち寄った。オフィス街の真ん中の、しかも高層ビルに出現した「虎ノ門横丁」という商業施設に行きたかったのだ。
東京の有名な老舗や人気店が、それぞれ新型で出店していて、その顔ぶれもスタイルも、とても面白かった。その中にこの店があった。イタリアンの寿司には興味があったし食べてみたかったが、満席で入れなかった店だった。
その2号店が、なぜか近所にオープンしていた。石川県に?、しかもこんなショッピングモールに?、と謎は多いのだが、入ってみたら事実だった笑。映画を観に行った時に見つけたのだが、ちょうど3日前にオープンしたばかりだった。

僕は知っていたから、すぐにその気になったのだが、普通の人なら、ちょっとした勇気がいる笑。まず、店の前に立っても何屋さんか分からないのだ。店には水色の暖簾が掛かっていて、テーブル席もカウンターもある。良く見ると「世界の塩で食べるオイル寿司&パスタ」と表示されている。
店頭のメニューボードにはパスタも書いてある。でも写真で目立つのは「にぎり寿司の盛り合わせ」だ。でも写真がいけてない笑。それが明らかに急ごしらえに見えるような素人的な写真だった。ちらりと見ただけなら「なんだか分からん」と思うだろう、店名も英文字だから、とにかく違和感だらけだ。
一緒にいた家内ですら腰が引けている。美味しいの?、という質問が出るのは、まぁ当たり前だと思う。寿司屋にしては変だし、イタリアンだと聞かされても、やっぱり変だ。とても美味しい寿司が出てくる感じがない笑。
でもまぁ、日本人にとってのカルパッチョは、魚とオリーブオイルと塩でできているから、イタリアンの前菜だと思えば、そんなものかもしれない。

とても丁寧な接客だった。この違和感の正体は、やっぱり寿司だから、そこを丁寧に説明してくれる。僕は「前菜だ」と思っているが、店ではメイン扱いだ。メニューはフツーに「パスタセット」から始まるのだが、次にあるのは「オイル寿司セット」だった。うん、そうだね、ネーミングで損してる気もする笑。
接客してくれたのは、この店の店長で、彼は富山出身らしい。「北陸の人は醤油で食べたいと思うはずですが・・・」と歯切れも良くない笑。僕がシェフのことを知っていると気づくと、一転して説明に熱がこもる笑。結局僕は、寿司も魚料理もパスタもついたコースを選んだ。
コースは、野菜10種類くらいのバーニャカウダから始まった。ソースはカリフラワーを使った特殊なやつで、これが美味しい。寿司を挟んで、魚料理はアクアパッツァ、選んだパスタはイチ押しのマッシュルームのクリームソースだ。やっぱり美味しいし野菜の使い方が上手だ。
さて、寿司の正体だが、これが面白い。使っているのは、何種類かのハーブオイル(つまり香りや味が違う)で、さらに色んな「塩」を組み合わせて(塩を振って)仕上げるものだった。たとえば海老はベルガモットオイルにヒマラヤ岩塩とか、帆立はアーモンドオイルに水晶塩、まぁそんな感じだ。
ちなみにマグロは、いわゆる「ヅケまぐろ」なのだが、なんと「トマトのヅケ」だったりする。読んでも味のイメージは広がらないと思うが、食べた本人からすると、あぁやっぱりイタリアンだ、ということなのだ。ちゃんと美味しいから心配しないでね笑。

さて最後におまけのハナシだが「料理を待つ間に観ててください」と店長がテーブルに持ってきたのは、ここの名物シェフが書いた、いわゆるレシピ本だった笑。僕がシェフのハナシを持ち出したからかもしれないが、タイトルからすれば、たくさんのパスタが出てくる教科書みたいな感じだ。
イタリアンには色んなタイプの店がある。チーズや肉がおすすめの濃厚なタイプの料理が主体で、ガツンと食べる店もあるが、この店は少し違う。大事にしているのは明らかに「日本の野菜」だと思う。素材の味を優しく引き出すタイプの料理ばかりだ。だからディナーには、少し物足りないかもしれない。
もはや重たい料理はキツイよなぁ、と思う僕たちにはちょうどいい。この教科書(みたいな本)のページを読みながら、シェフや店長が伝えたい世界を、すこし覗いた気がした。
ちなみに、この店の店名はイル・フリージオという。たぶん「降り塩」ってことだと思う笑。このシェフはそんな面白い人だ。

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