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2023年11月24日

本の時間「歴史小説の授業があったなら」

何年か前のことだが、鞆の浦(とものうら)に行こうとしたことがある。広島県福山市の瀬戸内に面した古い港町だ。古くは潮目の境にあった海の難所で、あの亀山社中(海援隊)の「いろは丸事件」の舞台になった場所でもある。

坂本りょうま(海援隊)が荷を載せ、航行していた「いろは丸」が、紀州藩の船と衝突して沈没した事件のことだ。ファンにとっては、莫大な賠償金を獲得した痛快なエピソードどして知られている。事故や賠償金は史実のようだが、エピソードとして皆んなが知っているのは小説の「竜馬」の方だと思う。作者のS馬さんが本名の「龍馬」を使わず、竜馬としているのは、史実を超えて、より魅力的な人物として自由に描きたかったからのようだ。まぁ小説は面白くないとね。
ちなみに僕が以前、鞆の浦に興味を持ったのは、あの宮崎駿監督が長逗留して、崖の上のポニョの構想を練った場所だからで、そもそも竜馬とは関係がない笑。今回こんな事件のハナシを思い出して少し調べたくなったのは、ある本を読んだからだ。その中の1枚の、鞆の浦の写真に動かされてしまった。プロのカメラマンの1枚には、そんな力があった。

この本を見つけたのは4月頃だったと思う。本と書いたが、いわゆるムック本(雑誌の特集などをまとめた総集編みたいなやつ)だ。だからタテヨコのサイズは雑誌と同じで、だけど雑誌より分厚くて、とても重い。
どうやら週刊朝〇に連載されたS馬遼太郎さんの連載記事を、ムック本として編集し、発売したようだ。表紙には彼の写真と、誰もがよく知る作品名がたくさん並んでいる。どうやら2023年は彼の生誕100周年らしい。
手に取ってパラパラめくると、単なる作品の書評ではなく、本にまつわる深いエピソードなどが、作品ごとに書かれているようだ。しかも美しい写真のページが豊富で、まるで写真集のようにも見える。それほど完成度が高い一冊に思えた。表紙の隅っこに「完全保存版」と書いてあるから、ファンにとってはお宝本なのかもしれない。僕は、たいしてファンでもないのだが、衝動買いしてしまった笑。

巻頭グラビアに続いて、竜馬がゆく、燃えよ剣のエピソードが続く。どちらのページも買った日に読んだのだが、別の小説(何冊もある長編)を読んでる最中だったこともあって、その後しばらく放置していた。だから読んでない残りのページがたくさんあった。
放置が続いた2~3か月後のこと、ふとそれを思い出して再び読み始めた(また最初から読み始めることにした)。やっぱり面白いのだ、一気読みしてしまった。作品ごとの解説もそうだが、書き手の方々のエピソードには、〇馬さんへのリスペクトや愛情を強く感じる。
小説家も歴史学のセンセーも史実を調べるのは共通なのだが、小説家はフィクションをまじえて、その登場人物つまり「人間」を深く描く。俯瞰で捕まえてディテールで表現する、まぁそんな感じだと思う。特に〇馬さんの作品は、ある意味で群像劇で、描く「男」は、いつも馬鹿みたいに魅力的だ。

〇馬さんの小説は有名すぎて、どれも何となく知っているのだが、どれとどれを読んだのか、実は覚えていない。数々の大河ドラマの原作だったり、スペシャルドラマのそれだったりするから「観た」と「読んだ」を混同している笑。
今年の大河の家康さんでいえば、僕の場合は、関ヶ原は読んだが、覇王の家や城塞は読んだことはない(でも知っている笑)。坂の上の雲や翔ぶが如くは、たぶん「観た」ほうだ。だって、主人公の顔が(役者さんの顔)が先に浮かんでしまう。でもまぁ僕は、観た後に、気になったら原作を読むタイプなので、そんな風に楽しんだかもしれない。

高校時代は、日本史も世界史も苦手だった。面白いと思ったのは社会人になってからだ。たぶん「人間学」みたいなやつが、シゴトの必須科目だったからだと思う。高校時代の教科書はどんな内容だったか、もはや覚えていないが、年表みたいな印象しかない。
それが、歴史小説をテキストにした授業だったら、きっと大好きになってたんだと思う。歴史にフィクションは必要ない、というのは重々承知だが、そんな講義なら受けてみたい笑。
ちなみに、いまハマって読み続けているのは、中世ヨーロッパあたりを背景にした歴史モノなのだが、こっちの作品でも、同じことを考えたりする。登場する歴史上の人物たちは、(小説だからだが)どいつも人間臭い。チーズやウイスキーがそうだが、僕は「臭いやつ」が好きなんだと思う。

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