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2024年03月07日

本の時間「魅力的な女性キャラたち」

去年の春先から、珍しく長編ばかりを続けて読んでた時期があった。それらはすべて中世ヨーロッパ史あたりのハナシばかりで、数えたら14冊もあった。作者はどれも同じ人(女性の作家さん)で、史実がベースなのだが、歴史上の人物を「膨らませて」深堀りするから、小説というジャンルになるらしい。
当時の東西世界の歴史のことだから、出てくるのは、地位が高くて偉いのだがやることが酷い男ばかりで、それを作者の女性がバッタバッタと切っていく、そんな面白さがあった。でも中世の史実だから、戦争や戦闘のハナシで、つまり血生臭さが付きまとうし、人間の業や醜さみたいな一面に引きずられた気がする。
そんな、ある意味で重い本を読んだ後は、その反動のように、最近の本を何冊か続けて読むことにした。僕にとっては史実とは違う別世界のエンタメ作品ばかりだ。どれも男性作家の小説ばかりなのだが、共通しているのは、登場人物の女性たちがとても個性的で輝いていることかな。そして、戦闘シーンが出てくるのも共通なのだが、この女性たちが強くてカッコいいのだ。どれも面白かったから、何冊か引っ張り出して少し書いてみようと思う。とはいえ、オトコとかオンナとか、そんなジェンダー問題を言いたい訳ではなく、昭和オヤジの僕にとっての(架空の世界の)登場キャラの魅力のハナシだ。

まず1冊目。この作品を知ったのは、映画の予告編だった。まぁタイトル通り、人気の女優さんが演じる主人公が、ガンガン銃をぶっ放す物語だ。悪い癖なのだが、僕は映画の方ではなく、その原作(小説)に興味を持ってしまった。時代は大正末期の東京だ。読み始めると、その時代の町の様子がリアルに丁寧に描かれていて驚く。当時の古い町名や建物名が髄所に出てきて、路地の温度や匂い、街に暮らす市井の人たちの息吹や活気まで伝わってくる。
ストーリーは、引退していたかつての敏腕女性スパイ(まぁ殺し屋かなぁ)が、縁あって一人の少年を助けて、陸軍の影の精鋭部隊やヤクザたちを相手に戦う物語だ。想像通り、銃弾が飛び交う戦闘シーンが全編で繰り広げられる。主人公の彼女が、めちゃ強いわけだが、戦いのさなかに、身にまとうファッションや食べたい銘菓を気にかけるシーンが描かれていて、読むとふと笑みがこぼれたりする。

2冊目と3冊目は、同じ作者の作品だ。この作者Hさんは17年前にデビューしたらしい。デビュー作は、4百年生き続ける日本古来の吸血鬼「闇神」を主軸にした伝奇ホラー(一種の警察小説)だったらしい。今回読んだのは新作なのだが、実に17年ぶりの「続編」らしい(シリーズ化が決まったから、その2作目ということかな)。まぁ闇神は不老不死の和製バンパイヤ(女性)だから、身体能力がとんでもないし、血生臭いシーンはたくさん出てくる。
ある意味で最強の女性ファイターなのだが、死ねない悲哀や孤独感を抱えたまま現代に生きている。400歳だからスマホなどの情報機器は下手だったり、UVカットの商品(バンパイヤの必須アイテム笑)にハマったりと、ごく身近なシーンも出てきて面白い。あんがい魅力的なキャラクターだから、シリーズ化はちょっと嬉しいかな。
そして3冊目の主人公は、この作者の名作「ストロベリーナイト」の主人公、つまり姫川玲子シリーズの新作で、いわゆる短編集(7作品)だ。ある意味で強い女性ではあるが、前述の主人公たちとは、強さという意味が全く違う。作者が描く警察小説には、血生臭さを越えた「狂気」と、独特のリアリティーがあるのが共通なのだが、この短編には、彼女(上司)の部下目線のストーリーもあって、柔らかで和める要素が多かった気もする。つまり新しい魅力ってことかな。

さて最後の1冊も人気作家さんの比較的新しい作品だ。舞台はバブルに沸く昭和で、一見平凡な家庭で繰り広げられる「嫁」と「姑」のハナシだ。とはいえ嫁は凄腕の元諜報員だったりするから、これが面白い展開になっていく。
嫁姑の戦いは、想像するだけで十分緊張感がある笑。僕たちのようなオトコたちはみんな避けて通りたくなると思うが、本作の当事者(新旧の女性2人ということかな)はどちらも、とても魅力的なのだ。僕はこの作者の、いわゆる「殺し屋シリーズ」が大好きだから、本作のストーリーの中に、同じような名前を見つけると、ちょっとドキッとして共通項を探してしまったりする。
さて、ストーリーだが、相変わらず張り巡らされた伏線の数々が、ラストに向けてつながっていく展開に、ぐいぐい引き込まれていく。まぁ本作の嫁と姑は、それぞれ凄いキャラだから、その争いも想像をはるかに超えていくのだ。
ちなみに、この本には中編が2編入っていて、前者の舞台は昭和、後者の舞台は近未来だ。ネタバレはダメだからこれ以上は書けないが、作者の腕はやっぱり冴えわたっている。
紹介した4冊はどれも面白いから、気分転換におすすめってことかな。

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