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2024年03月29日

いつか旅に出よう「レモンと海賊と伝説のホテリエ」

ある日の台所に、見かけないガラス瓶が置いてあった。いただき物のレモンシロップらしい。何気なく手に取ったらラベルには「瀬戸田レモン」と書いてある。お~っと驚いて、ふと景色が浮かんだ。瀬戸内の静かな海とそこに浮かぶ小さな島、そしてたわわに実るレモンの木々だ。かつて訪れた尾道で、僕はすっかり瀬戸内のファンになってしまった。だからまた行きたくて仕方がないのだ。

コロナ渦中だったからずいぶん前だが「島と現代アートな旅」というタイトルで瀬戸内の「直島」のことを編集後記に書いた。瀬戸内国際芸術祭の会場の「小さな島」を順に巡るアートな旅のハナシだ。でもまだその旅は実現していない。なのに、今度は「しまなみ海道への旅」を思いついてしまったのだ笑。
瀬戸内の地図で言えば、広島と岡山が並んでいて、その中間くらいに尾道がある。尾道を中心に見ると、「アートな旅」は右側(岡山側)の島々への旅で、今回の「しまなみ海道への旅」は、左側(広島側)の島々をめぐる旅だ。
イメージで言えば、初日は尾道に泊まってゆっくりしたい。尾道には小さな宿もあるようだし、前回見つけた小さなデザインホテルに泊まって、夜は居酒屋あたりで楽しむのも悪くない。

翌日は尾道からレンタカーで「しまなみ海道」を走りたい。天気がいいなら、いったん四国の今治へと向かうつもりだ。走るだけなら1時間ほどの距離らしい。
今回の旅は「しまなみ海道」と書くしかないのだが、僕にとっては目的地がちょっと違う。能島(のしま)という小さな島と、生口島(いくちじま)というレモンの島だ。後者が「瀬戸田レモン」の産地として特に有名な場所なのだ。
前回の尾道の旅のとき、時代小説「村上海賊の娘」のことを思い出した。フェリーのターミナル駅で、壁の大きな地図の隅っこに、村上海賊の本拠地「能島」を見つけたからだ。ホントにここ?と疑うくらいの小さな島だった。後年ここが、ブラタモリの舞台としてテレビに登場した。当時の要塞(能島城)の遺構や、高台から見える瀬戸内の島々(当時の航路だ)の映像だった。この天然の要塞の解説は、小説と同じようなことを指摘していて面白かった。
今は無人島でフェリーもないようだが、誰かに頼めば渡ることはできるようだ。調べたら、隣の大島から船で向かう「能島上陸と潮流ツアー」というやつもあるらしい。まぁこっちが現実的かな。

もうひとつの目的地は新しい一軒の宿だ。いわゆる旅館だが、ちょっと意味が違う旅館、つまりリゾート宿だ。3年ほど前だろうか、生口島(いくちじま)の瀬戸田(まぁ港町かな)の昔ながらの商店街に、この宿が開業した。どうやら商店街の外れの元豪商の古い民家を、京都の名工などの手によって現代に蘇らせたようだ。公式サイトで見る限り、非日常の時間が流れる「わずか22室」の素晴らしい日本旅館だ。
さらに興味深いのは、商店街の通りを挟んだ向かい側に「銭湯」を併設していることだ。ある意味でこの小さなレモンの島に楽しい滞在スポットを創ったということになる。旅先の素朴な銭湯にはそそられる。
この銭湯は、しまなみ海道を楽しむサイクリストやたくさんの旅人の日帰り入浴のために、そして地域の人たちの集いの場所にしたかったようだ。さらに銭湯なのに宿泊できるようだから、気軽な、現代の旅籠(はたご)のような施設かもしれない。地域に暮らす人たちが、新しい施設とともに町や島を再生していくストーリーは、どこか瀬戸内国際芸術祭に似ている。

実はこの再生の物語を担って宿を手掛けたのは、伝説の世界的ホテリエ、あのアマン・リゾートの創業者エイドリアン・ゼッカ氏だという。彼と彼の信奉者たちによるプロジェクトなのかもしれない。
興味のない人にはどうでもいい話なのだが、僕にとっては開業の以前から、とても興味深いニュースだった。大げさに言えば日本だけではなく世界中の熱狂的なアマンファンや、最高のサービスを目指すホテリエにとっても、注目の宿になるはずだからだ。だからこそ、できれば泊まって、歩いて、そんなストーリーを感じてみたい。
まぁ、書きながら思うのだが、一本のレモンシロップからこんな妄想ができる僕は、やっぱり変なやつなのだ。

この旅館 azumi.co/setoda/
この銭湯 azumi.co/yubune-bathing/

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