穀雨(こくう)の始まりに探したパン屋
いつものように、ある日のドライブ散歩のハナシだが、こんな僕には珍しく、ちょっとした「雅なコトバ」から始めたいと思う。
穀雨(こくう)というのは二十四節気のひとつらしい。「雨が百種の穀物を生じさせる時期」を意味するのだそうだ。つまり「穀雨」は文字通り種まきや田植えの時期に降る雨ということかな。例年なら4月20日頃からの15日間のことで、次は「立夏」つまりいよいよ夏が始まるということのようだ。
もちろんそんなことを無骨な僕が知るはずはない。このとき調べて初めて知ったことだ。そういえば最近カエルの声を聴くようになった。近くの田んぼにも水が張られ始めたから、そんな季節の、そんな準備が始まったのかもしれない。この日は4月20日、穀雨の期間に入った日だった。
2週続けて鶴来の里山へやってきた。大好きなこの蕎麦屋「S」の近くに、とても見事な枝垂れ桜があるのだが、もう見頃は過ぎていた。色がくすんで元気がないように見えたりする。たった1週間の違いなのだが遅かったようだ。
開店時刻までまだ時間があるから、周囲をもう少し散歩することにした。だめかなぁと思った終盤、反対側の畑の横に咲きほこる八重桜の木を見つけた。主役交代ということかな。見事なほどの満開で、ちょっと得した気分だった。
この日食べたのは、能登震災応援メニューだ。いつもの鴨せいろだと思ったら、鴨もきのこも蕎麦も増量されていて、最後に雑炊まで付いていた。どうやら差額の500円をそのまま募金箱に入れる仕組みらしい。筍と舞茸の天ぷらも凄い量で、この日の満腹感は半端ない。
さて、この日の目的は、気になっていた人気急上昇の「新しいパン屋さん」だ。どうやら小松の山の方にあるらしい。ここからだと30分くらいかなぁ。さっそく腹ごなしのドライブに向かった。
●鶴来の蕎麦と桜(スライドして右へ)
さて、ドライブ散歩だ。鶴来の山から下りて橋を渡り、右手に手取川を感じながら田園を進む。加賀産業道路に合流したら小松方面へとひた走る。パン屋は小松の長谷町?にあるらしい。とはいってもピンとこないから、Googleマップに従うだけだ。
久しぶりの産業道路は、適度なカーブやアップダウンがあって、こんなシニアにも運転が楽しいと感じさせる。山の緑もやけにきれいに見える。桜が終われば新緑の季節ってことかな。八幡ICで8号線(小松バイパス)に合流したら、ほぼ直線道路で気持ちがいい。そして東山ICを降りて山側へと進む。ずいぶん昔、ここに人気の「うどん屋さん」があって、よく使っていたことを思い出した。でもここから先は行ったことがない。
森を抜け、小さな川を目印に小径に入っていく。いわゆる在所の風情だが、少し進むと右手に数台の車が停まっているのが見える。駐車場か?と思ったが外壁のトタン波板が錆びた古い倉庫だ。でもマップのゴールはここらしい笑。そうこうしているうちに、トタンの倉庫から、カップルが出てきた。手には袋をさげている。ようやく理解した。これが目的地のパン屋だ。
●山里のパン屋のアルバム(スライドして右へ)
トタンの倉庫(のような建物)には小さく店名サインが付いていた。書かれている店名は「穀雨」。名付けた意味や理由は分からないが、僕たちは、たまたま穀雨の始まりの日に、そんな名前の店にやってきたのだ。なにか不思議な気がした、縁てことかなぁ。
元は資材置き場だった建物を生かしてリフォームした店らしい。中は土間の広い空間でセンスが光るレイアウトだ。天井も高くて解放感にあふれていた。奥のキッチン側にショーケースがあって先客が何組かいた。土間のテーブルでは親子がパンを食べている。まぁいい雰囲気だ。
ところが、ショーケースにはパンがない笑。残っていた2種類と袋入りのタルト3種を買うしかなかった。そういえば人気のパン屋さんというのは、買うなら午前中が勝負だ。ちなみに営業時間は15時までだった。まだ13時くらいだが、もう閉店間際ということなのだ。でもクロワッサンがゲットできたから、まぁ良しとしようか。
帰ってからショップカードを眺めていた。穀雨の意味も調べてみた。そしてあの不思議な空気感の店のことを思い出していた。食べたクロワッサンは、なんとなく素朴な味がした。とても美味しい。そうだな、これが里山の春を感じる味ってことかもしれないな。