満月、レンガ倉庫、正体、アカデミー賞、ホワイトデー
最近の編集後記では、僕が読んだ小説のハナシを書く頻度が増えている。理由は実に単純だ。最近の僕の日常には楽しいニュースがほとんど無い、つまり書くほどのネタがないからだ。ネタに困ったときは小説と映画のハナシ(テレビもそうかな)にする、と密かに決めている笑。
編集後記を書き始めてから、そろそろ10年になる。毎週1~2編の誓いは守っているが、年齢の壁というやつかなぁ、毎日の出来事に変化がなくなりつつあるのだと思う。特に冬がダメなんだ、と季節のせいにしたりする。
実は「書かない触れない」と決めているジャンルも多いから、これがなかなか難しい問題なのだ。たぶん春になってぽかぽかしてくれば、僕の行動範囲が広がって、再び楽しいハナシや笑える失敗談をお届けできるはず、そう願っている。
さて今回紹介する小説のタイトルは「正体」という。つい先日読み終えたばかりなのだが、読後感としてはあまり良くなかった。その暗い余韻が僕の脳内に残ってる感じかなぁ。つまり「おすすめ」ではないから、編集後記に書くことはないと思っていた。
この小説はドラマ化され、その後は映画化されたほどの話題作らしかった。とはいえ僕はドラマも映画も観ていない。ジャンルでいえば社会派ミステリーという感じかな、まぁその程度の印象で読み始めた小説だ。
幼児を含めた一家3人を惨殺し死刑判決を受けている少年死刑囚が脱獄し逃亡する。オリンピックの工事現場、スキー場の旅館、パン工場、介護施設・・・そんな転々と逃亡&潜伏を繰り返す日々を、彼と接した人たちの目線で綴るストーリーだ。
僕達の世代にとっての逃亡者は、やっぱりリチャードキンブルかな笑、追いかけるのがジェラード警部だ。真犯人の片腕の男を探しながら逃亡を続けるのだが、潜伏先で市井の人たちをついつい助けてしまう・・・まぁ、これが僕達の王道ストーリーってことだ。
ネタバレはダメだが、本作にも読者が共感するシーンが散りばめられている。
たまたまなのだが「この日」の夜、僕は市民芸術村にいた。昼と違って冷え込みが激しくてとても寒かった。敷地はとても暗くて不思議な空気感があるのだが、レンガ倉庫の上に輝く月がとてもきれいだった。月齢を調べたら、なんとこの晩は満月らしい。
建物の周囲には控え目な照明もあるのだが、そこに月の光が加わって、その陰影が強くなり、ちょっと不気味なシルエットを描いているように思えた。逃亡中の犯罪者が闇に潜むってこんな感じかなぁ。だからついつい小説のシーンを妄想してしまう。
読んで放置した小説なのだが、やっぱり書こうと思ったきっかけは日本アカデミー賞の授賞式の結果を知ったからだ。まぁいつものミーハーな反応ということかな笑。
実はこの日の同時刻、発表された最優秀男優賞はY浜流星くんだった。映画「正体」の主演だったのだ。どうやら主人公の苦悩が乗り移ったような迫真の演技だったらしい。彼はまだ20代らしいが、映画のプロたちに選ばれたということは才能あふれる若手俳優という証だと思う。
いまや大河ドラマの主役だから、僕にとっては、前向きで明るくめげない蔦重のイメージかな。たぶん映画とは全く逆のキャラを演じてみせてるのだと思う。すごいな。
さて、冒頭で僕は「単調な毎日」を過ごしていると書いた。そう書いた僕の「この日のこと」を試しに書いてみたい。どうでもいいのだが、まぁおまけのハナシだ。
「この日」というのは3月14日だった。つまりホワイトデーだ。そして、日本アカデミー賞の発表も、満月も輝きもこの日の夜の出来事だ。
いつもと同じリズムで朝を迎え、午前中のルーティンを終えて仕事先へ向かう。この日の会場は福井だったが、これもいつものことだった。違うとすれば、相手の社長さんが振ってくる話題がホワイトデーの「お返し」のこと、つまり彼の(バレンタインの)個数自慢で、僕のそれを聞いてマウントをとることかな笑。大事なのは個数より感謝のキモチだけどね。
この晩、市民芸術村へ彼らに会いに行ったのも、まぁ(頻度は違うが)いつものことかな。ちなみに練習後の彼らにホワイトデーの話題を振ってみたのだが、誰も乗ってこないところをみると、興味のない話題ってことだね、きっと。
おっさんの毎日は、やっぱり単調だ。それは年に一度のバレンタインやホワイトデーでも変わらない。たぶん誕生日もそうかもな笑。そんなおっさんは、身近な小説や映画に逃避行したり、非日常を求めるのかもしれない。
僕にとってはちょっとした脱獄&逃亡ってことかな。