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2019年01月04日

BARの夜話「ます酒のカウントダウン」

ずいぶん昔のことだが、夜の片町の店舗で大晦日に仕事をしていた時期がある。年中無休の店だったから、大晦日も正月も関係なく朝4時まで働いていた。大晦日の夜の片町は静かにスタートするのだが、紅白歌合戦が始まる夜9時を回るころになると、店は、僕と同世代の若い人たちでごった返していた。若者たちが順に集まってきて、あちこちのテーブルで「同窓会」が自然発生的に始まるのだった。営業しているこの店が待ち合わせ場所だ。計画性はないので予約するわけでもない。満席で座れなくても立ったまま同窓会が膨れていく。決して広い店ではなかったが、あちこちのテーブルで、同窓会特有の歓声が上がっていた。
BGMは紅白歌合戦のラジオ放送に切り替わり、それが終わると全国の神社仏閣の実況放送と一緒に「除夜の鐘」が店内に響いていた。ます酒の「振る舞い酒」を手に、ちょうど1分前からカウントダウンの合唱が始まり、117番の時報とともに乾杯するのが、この店のお決りだった。そして判を押したように、揃って深夜の初詣に出かけて行くのだった。そんな同世代の姿は、当時とても羨ましかった記憶がある。いつの日か27期の、そんな同窓会をやりたかった。最近になって再び思い出すようになり、いずれ企画しようと密かに考えたりしている(笑)。

この宿の広い敷地の中には、ゆるやかに川が流れていて、カルガモ?の親子が泳いでいる。流れが急な部分や、ゆるやかな場所、段々畑のように段差を付けて変化を出す場所もある。コテージ(客室)は概ねその川に沿って散在している。最低限の照明で照らされた狭い小径や、橋や、木々の間を散歩しながら、「集いの館」と呼ばれるメイン棟に向かう。メイン棟(フロント棟)は、敷地の斜面を使った大きな建物で、中は巨大な吹き抜けの2階建てだ。2階部分から1階部分へと階段状に配置されたメインダイニング、そして続くフロントカウンターを見下ろす形で「ライブラリー」が配置されている。

ここには文字通り図書館のように、様々な書籍が並び、宿泊客が自由に本や雑誌を手にして読んでいる。図書館と違うのは、寝転がれるようなベッド型のソファーやフリードリンク、小菓子が置いてあることだ。珈琲や紅茶、ジュースなどと一緒に、なぜか今日はシャンパンが冷えていて、これも自由に飲むことができる。ちょっと贅沢にシャンパンを少しだけ飲もう。きっと今夜だけのスペシャルメニューだ。

時刻は23:30、もうすぐ新年になろうという頃に、ここで年越しイベントがあるのだという。フロントのカウンターは、特別な臨時のBARへと変身していて、ワインや飲み物、そしてチーズなどの「つまみ」が並んでいる。参加する宿泊客は、ここで好みのワインと好きな小皿を受け取る。こんな時刻に遊ぼうとする「もの好きな客」は、僕以外にもたくさんいて、みんなワインを片手にスタッフと談笑している。
年越しのタイミングになると、支配人のカウントダウンの掛け声とともに、地酒の「こもだる」が鏡開きされ、専用の枡(ます)で、振る舞い酒が始まった。すでに片手にシャンパンを持っているのに、追加するかたちでワインとチーズを選ぶ羽目になり、ついには「枡酒」まで受け取って、両手に酒を持った年越しになってしまった。若い頃に見たのと同じ光景だ、シニアにはこんなスタイルの年越しも悪くない。

部屋への帰り道、新年初めての夜風の攻撃を受け、ダウンの襟をたてた。部屋にはテレビも時計もない。さっきのライブラリーで見つけたビートルズの「アビーロード」のCDを聴きながら初夢を見ることにしよう。27期のみんなとの笑顔のカウントダウンの夢がいいんだけどな。

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