ただ食べたくて「中央線の夜」
この日は中野に降りた。古い古い居酒屋に行くためだった。O蒸気という店名の、いわゆる炉端焼きの名店だ、けっしてSLとか、鉄道ファンの聖地のような店ではない(笑)。炉端焼きは今、再々ブームで熱い。店に入ると、すぐ左手に帳場がある。レジカウンターではなく帳場、と言うのが妥当なレトロな佇まいで、中にいるのも60代のおばあちゃんだ。満席なので2階席か3階席なら案内できるというのだが、この店は1階のカンターにしか興味はないので、待つことにした。
1階のカウンターの中には、お寺にあるような、ばかでかい梵鐘の形をしたダクトが下がっていて、その下に巨大な「炉端」がある。大量の炭が大きな炎を上げて燃えていて、大きくて長い串に打たれた魚が、炭火の周囲を囲んで炉に刺さっている。焼き師の男性が炉の周りを歩ぎながら加減をしていく。これが実にそそられる。働くスタッフは男性だけ、しかも年齢は間違いなく全員60歳以上のおじいちゃんばかりだ、でも皆んな元気に接客してくれる。この日のお薦めは、のど黒と金目鯛だったが、値段も値段なので、じゃがバターとか焼きナス、魚の3種焼きとかで、軽めに楽しむことにした。この日は、行きたい店が、高円寺と吉祥寺にもあったからだ。でも中野の商店街は食いしん坊には辛いエリアで、右も左も旨そうな店ばかりで気が散る。あの店頭で焼いている焼き牡蠣、旨そうな匂いをしていたなあ。できれば毎日でも来たいくらいだ。
高円寺にはたくさんの商店街があり、様々な飲食店の宝庫で、中央線沿線でも活気あるエリアだ。中野から高円寺に向かい、本日の目的地「Aぶさん」という居酒屋へ向かった。小さい、いや極小の店なのだが、有名な繁盛店らしい。まだ時刻は早いのに、当たり前のように満席で、当たり前のように電話番号を訊かれる。席が空いたら電話で知らせてくれる仕組みだ。1時間くらいで空くだろう、などと、これも当たり前に通告される(笑)。待ち時間を利用して、商店街を散歩することにした。居酒屋だけでなく、沖縄料理やスペインバル、コスパで有名な寿司屋や、焼きとん(豚)の店があったりと、どれも入ってみたい店ばかりだ。
あちこち歩いて、そろそろ時間なのだが、まだ電話はかかってこない。仕方なくカフェを探すことにした。高円寺はカフェの聖地のはずだ。しかし、こんな時に限って見つからず、レトロな洋菓子店の奥にある喫茶スペースで時間を潰すしかなかった。コーヒーを飲もうとした頃、電話があって、ようやく店へ向かった。座ったのは、これまた狭いカウンターの端っこで、身体半分が通路にはみ出てしまう(笑)。貝の刺身や焼きハマグリを食べながら、お薦めの地酒を注文した。スタッフの態度はお世辞にも良いとは言えず、出てくる料理に感動できないまま、失敗の夜はふけていった。もうこんな時間だから、吉祥寺の店はあきらめて、別の店でものぞこうと思う。きっと居酒屋放浪記の吉田類にだって、こんな失敗の夜はあるだろう。失敗を自覚した夜は、その後悔をコップ酒で喉に流し込むしかない(笑)。吉祥寺の日本酒酒場は、次の機会だな。
中野のその店 nakano-okajoki.com
高円寺のこの店 yakigaiabusan-kouenji.owst.jp