toggle
2019年08月23日

ホテルの時間「コンセプトは秘密基地」

キャッチフレーズの「秘密基地」に引っかかってしまった。僕の世代は、このコトバに弱い。幼い頃、犀川の河原にあれこれガラクタを集めて、近所の悪ガキたちと秘密基地をつくり、マンガを持ち込み、昆虫やトカゲやカメを飼っていた。釣った川魚やおたまじゃくしは、飼ってもすぐに死ぬんだと、体験の中で学んでいた(笑)。幼い僕たちは無垢だが残酷だったんだな、そんな秘密基地には身近な不思議がたくさんあったんだと思う。
この日は山手線の大塚駅で降りた。今までこんなところに降りたことはない。池袋の隣にあるのだが全くイメージできない街だった。北口には小さなロータリーがあって、その先に今日のホテル「O」があるはずだ。1~2分でホテルを見つけた。と同時に、わずか1両の小さな電車が走っているのが見えた。都営荒川線だった。いわゆる都電(路面電車)の生き残りで、路線は早稲田から三ノ輪橋へと続くようだ。交差点では独特の警報音が聞こえた。気分は下町レトロに傾き、色彩がセピアになったような気がする。線路の向こう側は、古い住宅エリアのようだ。このホテルは、そんな都営荒川線の踏切の横に立っていた。そこは、今までに体験したことのないようなホテルだった。

ホテルが入居するビルはピカピカの新築13階建てで、周囲とは明らかに違う建物だった。それが目立つほど周りは古い街並みだ。エレベーターで4階のフロントに向かうと、そこは、まるでカフェを思わせるフロアだった。しかし、やたらとゴチャゴチャしている。天井や壁や棚に、白い角材がふんだんに使われている。たくさんの人が、テーブルやソファーに座り、おしゃべりしたり、PCに向かって仕事していたりする。こんな、たまり場のような雰囲気はまさにイマドキのカフェだ。
棚にはお菓子やオリジナルグッズや雑誌などが並び、横にはホテル周辺の「遊びのためのマップ」が設置してあった。このマップには手書きの情報メモが細かく貼り付けられている。なるほど、これは小さな旅や街歩きのための秘密基地かな、と感じさせる。好きなヒトには、このザワザワしたルーズな感じが嬉しくなるんだと思う。
チェックインカウンターはカフェの奥の方にあった。すごく小さくて見過ごしてしまいそうなサイズだ(笑)。笑顔のスタッフが、セルフのチェックイン機の使い方を説明してくれる。QRコードを使うとルームキーが出てくる。このルームキーを使わないと客室専用エレベーターには乗れない。

一番の特徴は客室だと思う。客室も秘密基地というコトバがよく似合っていた。最初に靴を脱ぐ。そしてベッドを見て驚く。なんと2段式のベッドが設置されている。かっこよく言えばロフト、ホテル側の表現では「やぐら」と呼ぶらしい。下段部分は大きく広いソファーで、寝転びながらテレビを観たりできる。
やぐらの横に階段があって、上段部分(ロフト)はちゃんとしたツインベッドになっている。使われていたのは高級羽毛布団だった。階段下はそのまま棚になっていて、冷蔵庫や金庫、バゲージスペースなどが組み込まれている。
部屋の壁には、カフェと同じ角材がタテヨコに組み込まれていて、テレビをはじめ様々なホテルグッズが、あれもこれも見事に収納されている。ここまで計算されたデザインを感じると、コンセプトの「秘密基地」にも納得がいく(笑)。決して広くないのだが、ごちゃごちゃしていて、でもとても楽しい。こんなに、せせこましいのだが、風呂は立派で広い。木桶と木の椅子があり、風呂だけはまるで日本旅館の風情だ。浴槽にたっぷり湯をはって、足を伸ばしてゆっくりできる。

実はこのホテルは、高級リゾートとして有名なHリゾートが開発した新型の都市型ホテルだ。駅前ホテルなのにターゲットからビジネスマンを外して、観光客だけに絞った特殊なホテルなのだそうだ。そんな大胆な発想から生まれたホテルは、確かに個性的だった。街を楽しむ、という視点で、ホテル周辺の細かくてディープな情報をていねいに発信していた。ホテルの裏には横丁のような新しい飲食店街があって、楽しそうでそそられる。この晩、渋谷で食事した僕たちは、ホテル周辺を歩かなかったが、次回はぜひ試してみたくなっていた。大塚の街はなかなかディープな匂いがする(笑)。
ホームページでは、やたらと若者のホテルのように見えるが、この日、宿泊しているのはファミリー客ばかりだった。このホテルは大人の遊び心をくすぐって、ホントに面白い。

ホテル「O」 omo-hotels.com/otsuka/

Other information