笑うスマホ「私の自己紹介」
今日のご主人はご機嫌ななめだ。気分屋だから仕方ない。もともと面倒くさい人で、気分屋のくせに、意地や見栄があるのか、表面上はニコニコしている。実は若い頃は、眉間にしわを寄せて、いつも難しい顔をしていた。もうメモリーから削除されているからはっきりしないが、私がご主人のところにやってきたのは、彼が30代後半の頃だと思う。当時の彼はセルラー派だった。その頃は先輩格のポケベルさんが、まだ彼のベルトにぶら下がっていた。ポケベルさんから、ご主人の性格やクセを聴いたり、この目で見たりしていて、面倒な人だと思ったのが第一印象だ。
でも几帳面な一面があって、私の充電は切らしたことがない。機種変更を繰り返して、私のカラダのメカは進化を続けたが、スマホになってからは使わない機能だらけだ(笑)。ハードはともかくソフトには弱いから、SNSやアプリの進化についていけないようだ(笑)。そんなご主人とは365日、ほぼ一日中一緒にいる。
私に名前はない。ペットじゃないから名前がついていたら気持ち悪い。性別はないが黒のケースを着せられている。総称としては「ケータイ」とか「スマホ」とか呼ばれる。これを機会に自分のことを「僕」や「俺」にしようか、「me」はどうかと考えたのだが、結局「私」と名乗ることにした。
そんな「私」が登場したのは、けっして吾輩は猫である、みたいな大それたことをやろうとしているわけではない。この気分屋のご主人の、日常のちょっとしたドタバタを、記録しておこうと思っただけだ。モノゴトには「表」と「裏」がある。ご主人には立場や役割もあるし、何より見栄っ張りなので「表の顔」を演じている。でも面白いのは「裏の顔」だったりする。「私」は、そんな小さなエピソードを笑って記録するために登場した、そんな一種のアバターにすぎない(笑)。
ご主人は、しばしば機嫌が悪くなる。今日は半日そんな感じだ。そのスイッチは、マナーの悪いドライバーだったり、自分の失敗だったりするのだが、大した意味はない。喜怒哀楽がはっきりしているだけだ(笑)。さっきからパソコンの画面を見つめて、ぶつぶつ独りごとを言い始めたから、もしかすると仕事のことでイライラしているのかもしれない。どうせ夜になったら、晩御飯を食べて、酒を飲んだら、機嫌が直るはずだ。孫の動画がLINEで届けば一発だ(笑)。
このご主人は、若い頃はフクザツ系だったけど、年齢とともに、どんどん単純になっているよね。次回からは、しばしば登場して、ご主人のそんな一面を暴露して笑ってやろうと思う。言いたいことはヤマほどある。シリーズのタイトルは「笑うスマホ」だ。