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2020年01月31日

舌の記憶「うどんエンターテイメント」

もうずいぶん前のことだ。その日は新宿歌舞伎町の怪しい空気のど真ん中で、長い列に並んでいた。ビルの地下1階にある店の行列は、地下への階段だけでなく表通りまで続いている。ビルの外壁にはホストクラブの大きな看板があってホストたちの顔写真が貼られている(笑)。周囲はテナントビルばかりで、たくさんの飲食店などがひしめき合っている。しかし並んでいるのは、若いカップルや女性グループばかりで、この場所に不似合いな感じがしていた。彼らが並んでも食べたい、この店は「Tるとんたん」という名前の「うどん」店だ。

元々は大阪の繁盛店で、経営が傾いた和食店を、その職人たちのプロの技を生かして「うどん」店として再生した事業、ということだった。その大ファンだった大物芸能人・某が、東京でも食べたい、と言ったことで東京進出したという噂話が流れていた。テレビ取材や番組での紹介などがあって、六本木と新宿の2店は、こんな超繁盛店になっていた。
ようやく店内に入り、案内された。けっこう大型の店だった。内装が凝っていて、照明もアンバーで高級な雰囲気だった。一見すると今風の和食店に見える。さすが芸能人御用達だ(笑)。六本木店のような個室は見当たらないが、厨房の一部がオープンキッチンになっていて、和食の職人たちがきびきび働いている。なぜかホールの奥にステージがあって、音楽ライブの予定表が貼られている。メニューは、普通のうどん屋とは全く違っていて、どれも派手で贅沢な仕上がりになっていた。和食の技を駆使すると、たしかにこうなるのかもしれない。季節限定品や個性的なサイドメニューも揃っていて、値段も高いが美味しい。

あれから何年か経ったが、東京大阪の色々な商業施設で、Tるとんたんを見かける。中でも大阪の大丸梅田の店や、東京の銀座東急プラザの店は、ファンキーな内装やメニュー訴求をしていて、とてもうどん店には見えない(笑)。どうやら1店1店どれもが違うコンセプトで店づくりをするようだ。しかし、どの店も長蛇の列が付いているのは、昔も今も変わらない。素朴な讃岐うどんのファンである僕にとっては、M亀製麺にも違和感があるし、Tるとんたんにも腰が引ける。
そんなイマドキのTるとんたんやM亀製麺は海外にも出店している。ホノルルのM亀製麺は、確かに恐ろしい人気店だった。どうやら全店トップの売上高を上げているのだそうだ。でも世界へ出ていく「うどん」、っていうのは、こんな店なのかもしれないな。ちなみに、Tるとんたんは、渋谷のスクランブルスクエアに最新店がオープンした。久しぶりに食べようか、と思ったのだが、やっぱりここも、恐ろしい行列になっていた(笑)。
Tるとんたん tsurutontan.co.jp

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