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2020年07月03日

青春のかけら「兄弟船」

あるとき、昔の写真を見つけて、遠い昔のいろんなことを思い出した。
20代から30代にかけて、仲の良い仲間の結婚が決まるたびに「男同士の婚前旅行」に出かけていた。いわゆる独身最後の旅行、というやつだ。仲間全員ではないが、日程を合わせて顔を揃える。おそらく4~5回はやったと思う。こうして原稿を書くとき、行った場所の思い出や映像が浮かぶのだが、もはや誰の結婚だったかまでは思い出せない。
うっすらとした記憶では、日影の山道に雪がある頃だから、11月終わりか、または4月初めくらいのことかもしれない。新穂高温泉の小さな旅館に泊まって、仲間の結婚を祝う宴を催した。そこは、仕事で知り合った取引先の行きつけの宿で、通称「かあさん」と、そのご主人と、美人姉妹の娘たちの4人で営む、民宿のような規模の小さな旅館だった。

宿は山の上の方にあって、ぬるめの大きな露天風呂に肩まで浸ると、ほぼ360度自然の中で、季節の山並みの向こう側にロープウエイが見える、そんな絶好のロケーションだ。朝ごはんの「ほうば味噌」と「かあさんの漬物」が絶品だった。
紹介してくれた人によれば、その宿には「使うコツ」があるという。近江町で魚介類をたっぷり買い、天狗舞を持って「お土産だ」と渡すと、その魚を使って刺身の盛り合わせが出され、片付け後に家族4人(もちろん美人姉妹も)が加わって、天狗舞の酒盛りになるのだ。
さらに酔うと、美人姉妹が一緒に露天風呂に入ってくる、というオマケ話まで付いていた。もちろん怪しいホラ話にも思える(笑)。その旅館の話を仲間に提案したところ満場一致で即決した。美人姉妹への妄想はそれほど効果的だった。そしてバカな僕たちは魚と天狗舞持参で新穂高へ向かった。

夕食のときの僕たちは、おそらくいつものように騒いでいたと思うが、もはやどんな宴会だったのか記憶にない。でも、「かあさん」に頼んで、お盆や酒を用意してもらい、露天風呂の湯船に浮かべて飲んで、遊んでいたことは確かだ。
しかし、期待して全員で待っていた露天風呂に、美人姉妹が入ってくることはなく、おまけに雨が降ってきて、備え付けの編み笠をかぶって、しょんぼり湯船につかっていた(笑)。先日見つけた古い写真をにはそんな僕たちが写っている。
宴会で騒いで酔って、さらに風呂でも遊んだから、何人かは酔いつぶれて寝入ってしまった。その後、後片付けが終わった父さん母さんと一緒に天狗舞宴会の時間になった。しかし、そこにも姉妹は顔を見せず、酔ったお父さんが、僕たちの友情に感激した、と自慢の「兄弟船」を元気に歌って聞かせてくれた。波の谷間にぃ命の花ぁがぁ~、ふたつ並んで咲いているぅ~・・・(笑)。そんなコブシ回しに手拍子しながら、僕は下を向いて「お父さん、これは兄弟の歌で、友情の歌じゃないのに」、とつぶやいていたっけ。

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