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2020年08月07日

本の時間「読めば必ず飲みたくなる」

砺波インターで降りた。午前中の予定が早く終わり、その足で大雨の北陸道に入ったのだが、ずいぶん早く着いてしまった。待ち合わせまで時間があるので、ヒマつぶしだ、と近くの本屋に立ち寄ることにした。砺波インターの近くにアピタがあって、その2階の隅っこに地元?の本屋が入居していることを知っていた。平日の昼だというのに駐車場に空きスペースはなく驚いた。そうか、砺波のアピタは全面改装され、MEGAドン・キホーテUNYという名前で、数日前に再オープンしたようだ。
ぐるりと回って、遠くの駐車場に停め、大雨の中を店内へと向かった。僕は傘の使い方がヘタクソなので、スーツのスラックスがベシャベシャだ(笑)。1階の食品売り場には地元のシニアがたくさんいて賑わっている。2階のソフトグッズもハードグッズも、ドンキらしい独特の陳列で、とても楽しそうだ。僕の地元の松任にもアピタがあるのだが、いずれこうなるのだろうか。まぁ地元民としては、いまより良くなるに越したことはない。

そんな喧騒とは裏腹に、2階の隅っこの、この本屋は静かで、誰もいない。まぁいつものことだ(笑)。雑誌コーナーとか、専門書のブースをひと通り眺めて、奥にある文庫本のコーナーへと向かった。その一角に、いわゆる新刊文庫をまとめて紹介する棚があるのだが、今日はなぜか、その隣の「店員がすすめる本」みたいな、ミニコーナーに目が行った。たった3冊だけをポツンと置いてあるのだが、3冊は、どれも「酒」をテーマにした小説だった。面白い切り口の企画だ。しかも、よくあるカタログ本みたいなやつではなく、ちゃんとした「小説」なのがいい。きっと選者の店員は酒飲みに違いない(笑)。
とはいえ見たことのない本だった。ブックカバーの装丁も、帯の広告もフツーだし、作者もまったく知らない人だ。でも、何気なく読んだ「あとがき」に、グイっと引き込まれる一節があった。いわく「この本を読み終えると泡盛が飲みたくなる」と言い切ってある(笑)。笑われても仕方ないのだが、酒飲みのココロをくすぐる、この一節にほだされて、買うことを決めた。せっかくなので横の2冊(こっちはBARが舞台の小説のようだ)も一緒に買った僕は、再び大雨の中を濡れながら車に戻り、そのまま車中で読み始めてしまった(笑)。

ストーリーは、主人公のバーテンダーが、常連客から、沖縄出身の祖父がカジマヤー(97歳の長寿を祝う沖縄の風習)を迎えるので、最高の泡盛を用意できないか、と持ち掛けられたことで始まる、沖縄への「勉強の旅」の物語だ。冒頭から、一気に引き込まれてしまった。激しい沖縄戦で焼失したはずの、幻の黒麹(くろこうじ)を復活させて作り上げた絶品の泡盛の話が出てきた。実在するメジャーな蔵元なので調べてみたら、それはホントーの実話だった。もちろん僕も飲みたくなった(笑)。
あとから分かることなのだが、物語自体は小説だけど、出てくる酒(泡盛)や蔵元は全て実在するものばかりだ。だから、主人公を語り部にした、いわゆる取材旅行のような物語だ。そして沖縄の歴史や風習、暮らす人たちの暖かさを描いたロードムービーのような、楽しい物語になっている。まぁなんというか、酒飲みには楽しい本、ということだ。だから翌日、一気読みして首を痛めてしまった(笑)。

そもそも僕にとって、泡盛は苦手な酒だった。焼酎のマイブームの頃には何種類かの芋焼酎がわが家の棚にあったのだが、泡盛は一本もなかった。でも、この本で苦手意識は一変してしまった(笑)。読み終えたら、必ず飲みたくなる。それはホントのことだった。だから勢いに乗って、さっき調べた幻の泡盛をオンラインストアで買うことにした。悪い癖が始まったのだ(笑)。その琉球泡盛の名前は「御酒」という。オサケではない、これで「うさき」と読む。沖縄のあいうえおは「あいういう」なのだ(これも本のウケウリだけどね)。
さっそく飲んだ「うさき」は、フクザツな味がした。もちろん作者のような味の表現はできないのだが、ひとくち目の印象は「これぞ苦手な泡盛」という感じだ。しかし飲み進めると、すぐに馴染んでいく。昔懐かしい「飴」の後味みたいな、なにか素朴な味を思い出したりする。泡盛はやはり身近な「家飲みの酒」なのだ。まるで沖縄の老人たちの笑顔や原風景が浮かんでくるようだ。
世界中に数え切れないほどの蒸留酒がある。泡盛は、そんな蒸留酒のひとつにすぎないのだが、それは、沖縄という狭い地域の、風土や特殊な歴史の象徴のような酒だ。たかが酒だが、されど酒だ。この本は、そんな奥深い話を教えてくれた。だから、大好きな沖縄へ、どうしても行きたくなってしまった。でも沖縄へ行けるのは、いつになるか分からないから、わが家の酒の棚に、何本かの泡盛が加わるはずだ。バカなやつだと、また笑われるな(笑)。

この幻の泡盛とその蔵元 zuisen.co.jp

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