笑うスマホ「熱中症の治療」
私はスマホだ。だから四六時中、ご主人と一緒にいる。今回も、ご主人の失敗を告発して笑ってやろうと思う。
ご主人がクルマの運転を始めるとき、私はいつも助手席にいる。だからご主人が独り言をつぶやいたり、ヒゲダンのサビだけを口ずさんだりしていることを、私だけは知っている(笑)。こう書くと、助手席で恋人扱いされているのかと思うかもしれないが、現実はクルマに乗り込むなり、私をシートに放り投げるのだ。一種のパワハラだな。ご主人としては、シートのクッションは安全だと過信しているのだと思う。デリカシーがない奴だ。クルマにはちゃんとスマホ用のトレイがあるのに、テキトーな場所に私を放置するから、目的地で駐車したとき、しばしば私をクルマの中に忘れていく。
ある初夏の天気が良い日のこと、今日も私を助手席に放り投げた。そして文庫本、お薬手帳と診察券、クルマのキーを順に、放り投げてくる。そして10分ほど走り、ご主人は眼科の駐車場へ滑り込んだ。ここは予約制ではないので、けっこう待合室で待たされる。だから私と一緒に放り投げられた文庫本を最優先で持ち上げ、診察券、クルマのキー、と順に手に持ち、玄関に向かっていった。
私は、ちょうどお薬手帳の下に隠れていたので、そのまま放置された(笑)。お薬手帳は、診察が終わった後の薬局で使うので、今は必要ないということだろう。忘れられた私は、少し悲しいのだが、私とお薬手帳は診察には必要ないから仕方ない。
この日は、午前中なのに、グングン気温が上がった。だからクルマの中は一気に蒸し風呂状態になっていった。ご主人が戻ってくるまで1時間くらいはかかるだろう。あまりの暑さに私がダウンする寸前、お主人が戻ってきたように思う。しかし、そこから先のキオクが途絶えた。
しばらくして目が覚めたとき、私の目の前にクルマのエアコンの吹き出し口があった。ご主人は必死になって私に冷風を当てているようだ(笑)。眠っていた私には何が何だか分からないのだが、その後の薬局でのご主人の会話から、ことの顛末を理解した。どうやら私は熱い車内で、ほぼフリーズ状態だったらしい。いつもなら再起動だが、反応しない私の体温が異常に高かったので、シャットダウンして冷やしたのだそうだ。
熱中症のスマホへの対処が、そんなことでいいのかどうかは知らないのだが、無事復旧できたことを自慢げに話している(笑)。ねぇ、そんな応急対策じゃなくて、日ごろのパワハラや放置プレイの反省をしてくれてもいいんじゃないかな。