本の時間「映画の広告にほだされて」
自宅の近くの小さな本屋へ行くのは、まるで日課みたいなものだ。結構な頻度でのぞいている。とはいえ、ほんとに小さい店だから、欲しい本はなかなか置いてもらえない(笑)。いつ行っても陳列は同じで代わり映えしないのだが、映画やドラマの関連本のコーナーだけは、次々に入れ替わる。まるで週刊誌並みだ。
そのコーナーに並ぶ本は、おおむね「知っているタイトル」のように錯覚する。なぜ知っているのかと言えば、さかんにテレビで紹介され、知らぬ間に記憶に刷り込まれるからだ。映画はヒットしなければならないから、上手に広告展開される。テレビや雑誌に頻繁に登場するのはそのためだ。そして、その原作本やノベライズ(シナリオ本)が本屋に並ぶことになる。
例えば、そんな本には本来の表紙の上に「広告用の表紙カバー」がかぶされていて、映画やドラマの出演者(有名人)の顔写真が並んでいる。まるで映画のパンフレットのようだ。つまり本の表紙カバーも映画の広告なのだ。この日も、そんな広告に上手に乗せられて、2冊一緒に買ってしまった。一冊は映画のノベライズ、もうひとつはアニメ映画の原作の小説(の文庫本)だ。映画は映画館で観るものなのだが、僕の場合は「映画を小説で観る」そんな感じなのだと思う。
ある日テレビで、映画の公開初日の舞台挨拶の模様を紹介していた。主役を演じた俳優たちが壇上に並んでいる。まぁそんな構図はよく見かけると思うのだが、この日は様子が少し変わっていた。主役のT中圭くんが、いきなり泣き始めるのだ。自分の映画を観て、ラストのシーンに感動したのかな(笑)。そこにコロナ渦での裏方スタッフの苦労談が重なっての大泣きだったらしい。共演者もつられて泣いてしまう。そんな舞台挨拶の印象が強くて、この本を手にした。読んだのは「〇ノマルソウル」という映画のノベライズだ。
ご存知かもしれないが、長野五輪のときの団体スキージャンプの陰にあった、テストジャンパー達の実話をモデルにしたストーリーだ(もちろん映画のこともあるからネタバレ厳禁だ)。読み始めたが、序盤はなかなか盛り上がらない。次第に「面白くないなぁ」と悪態をつきながら読んだり、夜おそくに酒を片手に、あくびしながら読んでいった。ところが後半だ、日本人なら誰もが知っているシーンになると、話が一気にヒートアップする。最後は一気読みだ。誰にも見られていないのをいいことに、大泣きしながら鼻をすすって読み終えた。ジジイは感動話に弱いのだ。だから映画もおすすめだ。行くのならハンカチが必須だろう。なにせ主役俳優が泣いてしまうほどだ(笑)。
あれっ?もしかして、映画館の上映は終わったのかな?、ならレンタル待つしかないね。
もうひとつもテレビの話だ。ある番組の映画コーナーに、あのお笑い怪獣さんまが登場していて、コーナーを仕切っていた。なんと、紹介しているのは彼がプロデュースしたアニメ映画なのだそうだ。タイトルは原作の小説と同じで「〇港の肉子ちゃん」という。まさに名前通り丸々に太ったアニメのキャラクターや、元嫁の大女優や有名な声優などの豪華なキャスティングの話題で終始していたように思う。でも、僕が興味を持ったのは、小説の原作者の西K奈子さんのことだった。
元お笑い芸人で今では直木賞作家になった某が、彼女をリスペクトしていて、彼女の作品をさかんにおすすめしていたことを思い出した。表現方向は全く違うのだが、このお笑い怪獣も彼女の原作小説に惚れ込んだようだ。
女流作家の小説は、僕にとって何となく敷居が高くて、あまり手にすることがない。西K奈子作品も同様なのだが、さんまのおかげで、初めて読んでみることにした。そしてファンになった。〇ノマルとは逆で、冒頭からリズミカルでとても楽しい。描写が生き生きしていて、不思議な空気感と優しい笑いを感じる作品、そんな印象だ。最近たて続けに重いやつばかりを読んでいたから、特にそう感じたのかもしれない。
ここでは概要すら書いてはいけないのだが、ひとつだけ提案がある。できれば文庫本も読んでほしいのだ。本編が終わった後に、作者による「あとがき」がふたつ出てくる(ひとつは文庫本用のあとがき)、そして元編集者の「解説」もある。そんな文庫本の最後の最後まで味わうと、この本の素晴らしさが、さらに実感できると思う。
そうだな、さんまには悪いが、こっちは映画ではなく小説の方をおすすめするかな(笑)。
その映画 hinomaru-soul.jp
この映画 29kochanmovie.com